<第十七話・砕>

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「琴子……琴子ぉ……!」  彼女の携帯電話を握りしめ、崩れ落ちそうになっている美園。可哀想だが、ぐすぐずしている暇などない。嘘でも自分の言う“希望”を信じて、ここは立ち上がって貰うしかない。 「早く助手席乗って、運転は私がするから!」 「おばあちゃん、お願い説明して……簡単でもいいから、お願い。何が何だかさっぱりわからないの。あの神様はなんなの。どうして琴子はいなくなったの。選ばれたとかなんとかって意味がわかんない。どうして名前を口にしたらいけないの、ねえ……っ!?」 「美園ちゃ……」 「琴子の携帯、ツニッターに変なメッセージ残ってた。篠崎秋乃って誰?迎えに行くってなに!?」  彼女は相当パニックになっているらしい。今はなんとか真知子の言いつけを守っているが、このままではいつ名前を口にしてしまうかもわからない。  時間はないが、仕方ない。ざっくりとでも説明するしかない。 「この村はね……地獄の蓋の上に存在してるの。元々、悪い気が溜まりやすい地形であったんだけど……それがこの世からもあの世からも飽和してね、一時期は大雨に日照りに土砂崩れに地震にと、天災ばかりが続いていたのよ。忌み地とも呼ばれるほどにね。それを防ぐために、大昔の人が一計を案じた。生け贄を用いて、人柱を立てて、それであの世の悪い気がこちらに溢れてこないように……二つの世界の境が壊れないように堰を作ったの」  彼女を強引に助手席に押し込みながら、真知子は言う。  人間、火事場のバカ力というのは本当にあるものらしい。自分より明らかに力があるはずの若い美園が、逆らうこともできずシートに投げ出される。多少乱暴だが、今は選択の余地などない。自分は急いで運転席に滑り込むことにする。 「その、一番最初の生け贄になってくれたのが“あの神様”だった。でも、神様の力は長持ちしない。一定周期ごとに生け贄を追加して神様の糧にしないと、地獄の蓋は緩んでしまうことになる。笹下村とは、“捧げる村”のこと。生け贄となる人間の条件は……“村の外から来て神様の名前を口にした者”。美園ちゃんはまだ口にしてない。でも琴子ちゃんはこの村に来てすぐ言ってしまった、だから拐われちゃったのよ……!」 「じゃ、じゃあ琴子は……!」 「助けられるのは、神様と交流できる家の男子だけ。私やあんたじゃ無理なの。説得できる人に任せるしかないんだよ、美園ちゃん……!」
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