<第十九話・拒>

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 実際本当に祟りであったかはわからない。  本当に竜脈だの地獄の蓋だの、そういうものがあるのかは実のところ誰にもわかっていない。  捧げられた“御影”も、悪しきものの存在こそ嗅ぎとることができたもののの、地獄そのものが見えていたわけではなかった。ただ長年の伝承と信仰、起きた出来事が人々にそういう認識を強く植え付けてきたにすぎないのである。  実際、地獄の蓋の上に存在する村と言われても納得が出来るほど、この土地は呪われていたのだろう。それほど多くの人が死んだ、それもまた事実ではあったのだろう。  果たしてそれが天災であったのか呪いであったのか、それが誰にもわからなかったというだけで。 「過去起きた天災の多くが、不幸なこの土地の地質であり、眼に見えぬ力のせいではなかったことはわかっている。だが、起きた惨劇の全てが明らかになったわけではない。未だその一部は科学で説明できぬものであるのも事実であるし……何より、“みかげさま”が定期的に生け贄を選んで差し向けてくるのも事実。生け贄となる人物の目印は、“この村に来てみかげさまの名を口にする”こと。……みかげさまの名前も、この村で起きている儀式も、他言無用で絶対に村の外に漏れるはずがない……漏らしてはならない掟であるはずなのに、だ。何故か一定の期間ごとに、みかげさまの名前を知った者が興味本意でこの村を訪れる……まるで誘われるように」  そういえば、と琴子は気付く。  自分達がこの村に来た切っ掛けは、美園が見かけた大型掲示板の書き込みであったはず。  昔はなかったインターネット文化だが、“誰が書いたかわからない、簡単に解明できない”という匿名性は、昔ながらの“不幸の手紙”にも通じるものがあるだろう。  実際あの書き込みが本当に“この村”で行方不明になった女性の弟のものだったなんて、一体誰が言い切れるのか。そんなもの、自分達に調べる手段などないというのに。 ――あれはもしかしたら、“みかげさま”本人の書き込みだった……?  よくよく考えてみれば、“名前を知ってこの村に来て、それを口にした人間は全て生け贄に選ばれる”のだとしたら。名前を知っておきながら、十何年もの間生き延びている者がいるなんて少々妙な話だ。  勿論姉が何か手記を残していた可能性もあるが、その場合普通なら真っ先にこの地に直接足を運んで調べようとするのではないか。  そして聞き込みをして、名前を口にして消される――それが普通なのではないか。  そもそもそれだけの月日が経っているのに今さら姉のことを調べるため、有象無象が蠢く大型掲示板に書き込みをするなんて。どうして気づかなかったのか。どう考えても流れが不自然であったのに。
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