<第十九話・拒>

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「最初の時からそう……!あんた達は体よく恐ろしい生け贄の役を、小さな女の子に押し付けただけじゃん!あんな酷い真似して殺して、それでも飽きたらずに何人殺し続けてきたのよ!そんなに生け贄がないと駄目なら自分達がなればいいじゃん、そうすればみかげさまの痛みや苦しみだって少しはわかっただろうに!人間の心って奴を失わないで済んだんだろうに!意気地無し!最低!鬼畜!死んでも恨んでやる……絶対に呪ってやるんだから!!」  死にたくない。消えたくない。痛い思いなんかしたくない。  それでも自分にはただ、こんなみっともない言葉を吐くことしかできないのである。縛り付けられた体はまるで動いてくれる気配なく、言葉も通じる余地がないというなら尚更に。 「……既に定められた現実だ。諦めろ、娘」  やがて、リーダーの男に差し出される籤の箱。悪夢の中で見たものと同じだった。  あの箱の中に、ろくな文字が入ってないことはわかりきっている。ああ自分も同じように、あの箱の中から引かれた文字で殺されるのだ。琴子の視界が涙で滲む。いくら目を瞑っても、涙を流しても、悪夢のような現実が洗い流されてくれることは、ない。 「今宵の文字は……“潰”」  そして、残酷な宣言とともに、文字が公開された。つぶす、という字。何かを潰されて殺されるということ。頭を潰して一思いに、なんて優しいものでないのは明白である。  恐らく文字にあわせた処刑が迅速に行えるよう、予め道具は用意されているのだろう。後ろに控えていた神官の一人が、盆に載せた道具を持って歩いてくる。それは、金槌だった。黒光りする工具が、琴子の目の前に設置された小さな机に置かれる。  しゃん、と。再び錫が、鳴った。 「では、右の指から順に……打ち据えて、潰していくものとしましょう。難しい方にはペンチをお貸しします」  筆頭神官は、無情に拷問の内容を口にする。 「潰しやすいように、台座は倒して使うものとします。皆様、準備を」  そして、琴子の未来は――決定された。
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