<第二十一話・解>

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 琴子のこと。祖母のこと。恐怖も絶望も何もかもないまぜになり、足がすくんで動けない有様ではあったが。それでも、自分のするべきことだけはわかっていた。むしろ、それを考えることでギリギリ、美園は理性を保っていたのかもしれない。  早く村から逃げなければいけない、それはわかっている。でも、もう逃げられる気もしない。そして、どんな理由があれ琴子と祖母を巻き込んでしまった自分は、これ以上の被害が広がらないようになんとかする義務があるはずである。――そんなことで己がしてしまった罪が、本当に許されると思っているわけではないけれど。 ――琴子の携帯からなら、ツニッターにログインできるはず……多分、自動ログインにしてあるはずだし……!  溢れてきそうになる涙をごしごしと腕でぬぐって、美園は琴子の携帯を取り出す。ツニッターのアプリは登録していないようだが、インターネットのブラウザで開いたままになっていたはずだ。汗でぬめる手に焦りを感じながらも、琴子のスマホのロックを解除した、その時だった。 「だめだよ」  すぐ後ろから、鈴の鳴るような声が。 ――……え?  その瞬間、世界は切り取られたように静止した。爆発を聞きつけて、駆け寄ってくる複数の足音が聞こえる。聞こえてはいるが今の美園には、それよりも真後ろにあるモノの方が遥かに重要な意味を持っていた。  焦げるような臭いがする。酷く重く、おぞましい威圧感を放つものが、自分のすぐ後ろに存在している。 「あ、あ……」  振り向かずに、逃げるべきだ。頭の中で僅かな理性が警鐘を鳴らしていた。しかし。 ――いるんだ、そこに。そこに……!  体は、操り人形のように――軋みながら、動く。振り向いてしまう。  目に入ったのは、艶やかなおかっぱの頭。赤い着物。焦げ付いた臭いが強くなり、そして。 「み、みかげ、さ、ま……」  禁じられた名前が、口から溢れ、落ちる。  瞬間目の前の少女は喜悦を示すようにがばりと口を開け――嗤い声と共に、一気に焔に包まれた。 ――だめ、これは、もう。  そこで。  美園の意識は、途絶えたのである。
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