<第二十二話・焔>

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――あれは、一体何だったのか。正直今でも、答えは出ない。  その部屋が悪かったのか、あるいは子供が悪かったのか。  確かなのは、やがて“違和感”は部屋から“子供”の方に移っていったということだ。その子供が外に出て、“鬼ごっこしたい人、この指止まれ”をすると――部屋の悪いモノが、全部その指に吸い寄せられていったのである。そして、その指に群がる子供達にも、だ。その子がそうやってみんなを誘うと、“黒いもの”はその集団全体に蔓延し、最終的には園庭そのものを真っ黒なもので覆い尽くしてしまうのである。  幼い焔には、それが恐ろしくてたまらなかった。本能的に、あれには近づいてはならないもの、触れてはならないものということだけわかっていたのである。  そして、恐らくその警鐘は正しかったのだろう。年中の夏――どうしても体がだるくて休んだ遠足。そのクラスの子供達は、揃って食中毒で倒れることになった。給食ではない。全員が親の手作り弁当を持ってきてそれを食べていたはずだというのに、だ。  そして弁当からも、食中毒の原因になるような菌は発見されず、結局事件の真相は闇に葬られることになったんである。このあたりのことは、幼稚園を卒園した後に、焔が自分自身で調べて知ったことではあったが。 ――あの教室に悪いものが憑いていたのか。あるいは、ああいう事件が起きることを、何かが俺に伝えようとしていたのか。それは今でも、わかっていない。  あれが不可視の力によるものか、あるいか科学的根拠があったのか。残念ながら、“科学で説明できないもの”は全て“悪霊や悪魔や神の仕業”と思い込みたくなるのが人間だ。ひと昔前で言えば、遠くの人間と自由に話せる小さな機械の存在など、それこそ神の御技やSFの存在としか思えないものであったというのに。  人は解明できたものを科学と呼び、そうではないものをオカルトに分類したがる。  そして解明できないオカルトを否定したい人間は、現在をもっても少なくはない。実際そのオカルトとされた分野から、多くのものが解明されて“科学”として昇華されてきたはずだというのに、だ。 ――だから、俺は。悪魔だろうが悪霊だろうが超常現象だろうが、全ては最終的に“科学”の産物となることを疑っていないんだ。ただ研究が進んでいない、それだけのことだと。  己にだけ見えるものの正体が、知りたい。自分の目の構造にだけ見える科学現象なのか、それとも幽霊や悪霊と呼ばれる存在であるのか。それが、新倉焔がオカルト研究を行うサークルに所属する、絶対的にして唯一無二の理由である。  解明されないものは恐ろしい。何故なら、正体がわかるからこそ人は対抗策を打つこともできるのだから。オカルト否定派の部員が入ってくれることはむしろ救いだった。そういう存在は、徹底的に幽霊や超能力と呼ばれる存在を否定するための材料を集め、解明しようと努力してくれるものだから。
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