<第二十三話・夏>

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――痛いよ。痛い。……どうして、こんな目に遭わないといけないの。あたし、このまま何も出来ないで死んじゃうの……?  さっきの神官達の言葉。もしかしたら、あれは美園のことだったのではなかろうか。  今から美園を攫いに行ったのだとすると、美園はまだ無事であるのかもしれない。そして、琴子のこの恐ろしい現状はまだ知らないのかもしれない。  どうすればいい、と思う。せめて、どうすれば美園に“逃げて”と伝えられたなら。伝えたところでどうにもならないかもしれないけれど、でも。ここで美園にむざむざ死なれるようなことになったら、琴子はもう――己がまだ生きている意味さえも、見失うような気がしてならなかった。  助かりたい。生き延びたい。もう苦しいのは嫌。痛いのは怖い。でも。  その願いが無理ならせめて――せめて、友人のことだけは。なんとか救い出す方法が見えないだろうか。せめて、これほど恐ろしい思いをした経験が報われる意味が欲しかった。完全にそんなもの、琴子の自己満足でしかないのだとしても、だ。 「無駄よ、そんなこと考えたって」  すぐ近くから、声がした。琴子ははっとして顔を再び上へと向ける。  誰かが、自分の事を覗き込んでいた。その姿には見覚えがある。そう、美園の祖父母の家にいた時。夜中に起きた琴子を攫うべく、廊下に現れたあの女性。ピンク色のパジャマ半袖のパジャマのようなものを着た、髪の長い女性だ。  恐らくはあのツニッターの呟きで――篠崎秋乃、を名乗る人物が“おねえちゃん”と呼んでいた、人物。  だが今の彼女は、あの時ほど凄惨な姿をしていない。青白く痩せた顔をしてはいるものの、その服が血や泥やらで汚れ手いるということもなく、骸骨というほどやせ細っているわけでもない。  恐らくそれが、本来の彼女の姿なのだ、と琴子は悟る。そしてそれが見え、声が聞こえるのは、きっと。 「私だって助けられなかったんだから。きっと、あなたにも無理」  きっと――もう琴子が、“そちら側”に足を突っ込んでいる、その証拠に違いない。
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