<第二十三話・夏>

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「貴女は……篠崎秋乃、とかいう……子の、お姉さん?」  叫び続けた喉はガサガサに乾いて、酷く聞き取りづらい声しか発してはくれなかった。しかし、彼女に通じるにはそれで十分だったらしい。やや目を伏せて、そうよ、と告げた。 「篠崎夏音。……貴女を迎えに行ったことに関しては、謝らないわよ。私だって、仕事なの。“みかげさま”の一部になった以上、お役目は全うしないといけない。そうじゃなきゃ、私も妹も永遠に開放されないんだから。……それでも、初代の“みかげさま”よりはマシだけれど。彼女はずっとその役目に殉じて、人柱を増やし、地獄の蓋を閉じる要を担い続けているのだから」  初代のみかげさま――あの御影、とかいう少女のことだ。あの少女は、幼くして強い力があるために幽閉され、最後は生贄として体よく差し出されて生きたまま火炙りにされて殺されてしまった経緯がある。だが、それでも村人達を恨まず、仕事を忠実にこなしていると思うといたたまれなかった。きっと、それだけが自分が産まれて来た意味であり、そうし続けなければあんな苦しい思いをして殺された意味がないとでも考えているのだろう。  あまりにも、やるせない。だって、琴子はもう気づいてしまっている。  もしかしたら、この場所にこの世とあの世の境界線なんてものはなかったのかもしれないと。あったとしても、それを塞ぐ役目は彼女でなくても良かったかもしれないし、他にも方法はあったかもしれないと。  それなのに当時の村人達は、持て余していた少女に体よく役目を与えて、理由をつけて殺したのである。それも生きたままじりじりと焼くなどという、常軌を逸したやり方で。恐ろしく苦痛を伴う方法で。人を人とも思わぬ所業で。  自分達が生贄になるのが嫌だったから――厄介者の少女に、全ての苦痛を押し付けることにしたのだ。それが、理不尽でなくて何だというのだろう。
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