<第十話・買>

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<第十話・買>

351:ミスター名無しさん@振り向いたらヤツがいるらしい。 みんな何言ってんの?いるじゃんそこ 一本足で両手横に広げてこっち見てる なあ これ かかしじゃない の?  *** 「…………ええ?」  その商店の入口まで行ったところで携帯を見た美園は、その書き込みを見て思わず声を上げていた。  先ほど自分が上げた写真は、普通の田園風景と夕焼けを撮影しただけのものである。そして、もう一度確認してみたが女の子のカカシのようなもの、なんて写っていない。この書き込み主は一体何を言っているのだろうか。  暫く考えて――美園は嫌な気持ちになった。これはもしや。  *** 359:記者志望JD そういうのちょっとやめてほしいんだけど。 そういうこと言ってみんなが不安に思うのをおもしろがってる? 悪いけど、霊能力者ぶってる人って好きじゃない。特別扱いされたいだけなのが透けて見えるっていうか。腹が立つ。 買い物始めるから落ちる。  ***  そう書き込んで、スマホをスリープにした。向こうで非難やら同意やらで大盛り上りかもしれないが、暫く見る気にはなれない。何か進展があるまで自分が書き込む義務もないしそれでいいだろう。  だから嫌なのだ、霊能力者のフリをして、みんなに迷惑をかける人は。今の写真に特別なものなど写ってない。自分に何も見えないのだから、きっとそれが正しいのだ。それなのに、カカシだのなんだのと、みんなを煽って一体何が楽しいのだろう。自分が霊能力者として頼りにされる展開でも期待しているのだろうか。今の掲示板が自分のサイトの管理掲示板などであったなら、即刻今のヤツをブロック処理してやっているところである。 ――そもそも万歩譲って本当に見えたんだとして、それ書き込む意味ある?自己主張しすぎ。自己顕示欲高すぎ。マジで引くわ。  まあ、こういうところに実況っぽく書き込めば、そのテの輩が沸くというのも目に見えた話ではあったが。とりあえずさっさと買い物を済ませてしまおうと心に決める。アイザワ商店の妙に派手なオレンジ色の建物を一瞥して、自動ドアを潜った。大した規模の店でもないが。それでも時々商品の置き場所は変わる。前は野菜コーナーを抜け、肉コーナーの突き当たりで左に曲がればすぐ左手に牛乳売り場があったが、今は違っているかもしれない。なんせ、二年はこちらに来ていないのだ。  それなりに自分で買い物をする人ならばわかるだろうが、牛乳コーナーとバターコーナーは極めて近い場所にあることが多い。同じ乳製品だ。ヨーグルトなども然り。二箇所捜して回らなくていいのは非常に楽である。楽ではあるのだが。
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