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<第十八話・爆>
逃げて、という真知子の声は――次の瞬間、引き裂くような絶叫に変わっていた。
ぼきり、ばきり、という砕けるような音。ぶちゅり、ともびちゃり、ともつかぬ肉が力任せに潰されるような音。そしてハンドルに、シートにと飛び散る赤と、鼻腔を突く凄まじい鉄錆の臭い――。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
凄まじい悲鳴を上げて暴れ、泡を吹いて悶える祖母。美園は助手席で、見てしまった。何かが祖母の足元にいることを。青白い顔のようなものが見える。血走った目が祖母を睨みつけている。そしてその何かがもぞもぞと身動きをすると同時に、ずる、と祖母の体が運転席の下へと引きずり込まれる。
「おばあちゃ……!」
手を伸ばそうとした瞬間、バキバキと骨を砕く音と共に祖母の体は運転席の下へと吸い込まれていった。そんなはずはない。そんなスペースなどあるはずがない。そもそも人一人が足元に潜むだなんて、そんな事自体が現実的ではないというのに――。
「い」
運転席の下から噴水のように吹き出す血と肉片が、シートもハンドルもギアも窓硝子も汚して弾ける。当然、身を乗り出そうとした美園の顔にもかかった。途端、血だけではない――恐ろしいまでの腐臭と排泄物の臭いをも鼻が拾ってしまうことになる。
耐えられる、筈がなかった。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああ!!」
弾かれるように美園は助手席を飛び出した。美園が駐車場に転がった瞬間、エンジンもまだかかっていないはずの自動車が、ドアも開けたまま勢い良く動き出す。
何故、なんて。今更疑問に思ってどうなるというのだろう。
軽自動車はそのままスピードを上げて駐車場を直進していく。別の車にぶつかり、恐ろしい勢いでそれらを撥ね飛ばすと、そのまま柵を思い切り突き破っていた。
美園の車はそのまま勢い良く塀へと激突し――爆発した。まるで見せしめか何かのように。
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