<第十九話・拒>

1/4
90人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ

<第十九話・拒>

 泣き叫ぶ琴子の声を、果たして神官達はどんな気持ちで聞いたのだろうか。  そこに見覚えのある顔はないが、恐らく全員が笹下村の住人なのだろう。年配の男性が多いが、中には若い男性もいる。全員が白い装束という、どこか現実離れした装いで統一されているせいか、仮面を被っているわけでもないのに揃って同じ表情をしているように思えてしまう。  そう、罪悪感なんてものを削ぎ落とした――狂信者の顔だ。  彼らは揃って、当たり前のように“儀式によってしか世界は救われない”と信じているのである。 「……木田琴子さんといったか」  やがて、リーダー格らしき年配の神官が口を開いた。  松明の灯りしかないので暗く、判別はつきづらいが――恐らくは六十代といったところだろう。髪は殆どが白く染まり、目元や眉間には深いシワが刻まれている。きっと若い頃はそれなりにイケメンというやつだったのだろう。ただ、端正なその顔に滲むのは途方もない苦労だ。もしかしたら、見た目よりも本当は若いのかもしれなかった。 「貴女の言うことは、間違ってはいないだろう。誰だってこのような運命、受け入れ難いものだ。それが世界の為と言われても納得できるものではあるまい。そして我々も、このやり方が現代にそぐわぬ古いものであることは、重々承知しているのだ」 「じゃあ……!」 「だが、残念ながら他のやり方は見つかっていない。……みかどさまのご遺志もあるし、同時に……あまりにも重なった“条件”が悪すぎたのだ。この地に竜脈が走っていなければ。この地にあの世への門がなければ。この盆地が山に完全に囲まれたものでなければ。そして……人々の闇や欲望がこまで深いものでなければ……地獄の蓋が緩むことも、このような惨たらしい犠牲を出す必要もなかったというのに」  確かに、それはそうなのだろう。“みかげさま”の思想を、思考を、記憶を受け取った琴子にはわかっている。この土地はあらゆる悪い条件が揃った場所だった。  地盤が悪かったせいで、山を切り崩して道を通すことやトンネルを掘ることは困難を極めた。何かを試みる度に落盤事故や土砂崩れに見舞われ、そのたびに人は“霊山に傷をつけようとした祟りに違いない”と恐れてきた背景があるとのだという。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!