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光流の部屋は子ども部屋のようだった。ぬいぐるみや玩具で物があふれている。大量のぬいぐるみに寄り添うように、一人の青年が寝ていた。
「おい、起きろ」
光流は足蹴りして青年を起こす。
「ちょっと、寝てるんだから起こさなくても……」
藤は光流を止めた。それでも光流は青年を起こしたいらしく、ガシガシと青年の背中を蹴った。
「ん……」
青年は目をこすりながら起きた。ぬいぐるみを持ちながら光流を見る。
「おはよう、光流くん……と、君は?」
青年は光流を見た後、藤を見た。青年はボサボサの頭にメガネをかけている。
「この子は八重だよ、今日から僕のガイドだ」
藤が答えようとする前に光流が答えた。藤はもう名前を否定する気は起きなかった。否定しても光流は八重と呼ぶだろう。
「そう……」
青年はうさぎのぬいぐるみの腕を握りながら立ち上がる。頭をボリボリと掻きながら部屋を出て行った。
「いいんですか?」
藤は青年が出て行った後を見た。
「いいんだよ、僕には八重がいる」
光流は確かめるように藤の手を握った。藤は光流に縋られているような感覚に陥った。
「八重、膝枕をして」
光流は藤に座るように促した。
「ほら早く」
急かす光流に藤は正座をした。足がシビれそうだな……。光流が藤の太ももに寝転がる。
「ガイドは全部僕のものなのに、陰陽寮どもはいつも邪魔をしてくる。陰陽術は邪教だ」
光流は藤の顔に手を伸ばす。だが、光流の手は短く藤の頬には届かなかった。
「邪教か……」
藤は生粋の陰陽師ではない。貶されても何も思わなかった。
「明治五年、新政府は『陰陽道』を迷信として廃止させた。なぜだと思う?」
光流は新政府側だ。藤は少し考えた後、答えた。
「気に入らないから」
獅堂の反応を思い出す。陰陽寮を敵対視していた。きっと、この館にいる人達は陰陽寮のことをよく思っていなさそうだ。
「そんな感情的に行動はしない。陰陽師を新政府に引き込むためだ」
一番感情的になっているのは光流のような気がする。藤は口を挟まないようにした。
「それで陰陽寮が……」
陰陽道から陰陽寮に名前を変えて今に至るってことか。
「本物の陰陽寮は四十二年前になくなったけどな」
「え?」
「あれは偽物だ」
光流は藤の反応を見るかのように目を見た。藤は少し気取られる。
「新政府に楯突くために帝都にしがみついているのさ」
光流は藤の隊服を掴んだ。挑発するような言い方。光流は藤を怒らせたいようだ。
「別に僕は陰陽寮に思い入れはない。それで、玖賀との関係は?」
藤は光流の手を握る。光流は「つまらないな」と口を尖らせた。
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