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「玖賀……?」
大丈夫か、その言葉は飲み込んだ。大丈夫なわけがない。ここで聴力が発動すると玖賀は昏睡状態に陥る。玖賀の耳は浅草にある音を全て拾い上げ、センチネルの能力が暴走する。
「政府のおもちゃを使ったところで、鬼の能力が押さえ込めるはずがないだろう」
深浦は見下すように玖賀を見ていた。
「そんな……」
深浦さんは獅童からもらった煉獄の数珠の存在を知っていた。藤は少しでも玖賀の身体を安定させようと、玖賀の手を両手で握りしめる。
「う、ああ、あ……」
玖賀の毛先は黒髪から白髪へと変わった。ミシミシ、とまた角が伸び始め、牙が生える。
「なんだよ……さっきまで普通だったじゃないか! 何が起きてんだよ!!」
手を繋ぐだけじゃダメだ。藤は玖賀に抱きつき、接吻をした。深浦さんがいるし、恥ずかしいけど玖賀の口に舌を入れる。
センチネルと陰陽師の粘液密着はセンチネルを癒す効果があるからだ。藤は玖賀に少しでも多くの唾液を注ごうと舌を出した。
「ん、んっ……くちゅ……」
藤は玖賀の肩を掴んだ。玖賀との密着力がますます高くなる。玖賀は藤の腰を持ち、抱き寄せた。
「あっ……」
ズキン……、と藤の下半身が苦しくなる。股間が痛い。
「おいおい、癒すとはいえ、ここでおっぱじめないでくれよ。陰陽師が変態野郎と思われるじゃないか」
深浦は藤達に近寄った。コツコツ、と革靴が鳴る。
「ですけど……んっ」
藤は言葉を濁しながら接吻をやめた。だが、玖賀はやめずに藤の口に吸い付く。まるで藤に喋らせないように接吻を続けた。
「鬼は嫉妬深いな。別に藤を取ったりしないよ」
トントン、と深浦はドアをノックするかのように玖賀の肩を叩いた。玖賀は「黙れ」と言わんばかりに、深浦を睨みつける。玖賀の目はうっすらと黒が混ざり始めていた。人間化が安定してきたようだ。
「鬼は感情に振り回されやすい。特に嫉妬心などの怨み呪いの執念にはね。センチネルも同じだ」
分析するように深浦は玖賀を見た。
「知ったような言い方をするな」
玖賀は気に食わなさそうな顔をした。藤は玖賀の濃い接吻から解放され、ハァハァ、と息を吸っている。
「まあね、それなりに鬼のことは知っているから」
満足げに鼻を鳴らし、深浦は眺望室から出て行こうとした。
「もう十分、浅草からの景色は楽しめただろう。陰陽寮に案内するよ」
深浦は玖賀と藤に振り返る。
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