鬼の国

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鬼の国

「玖賀は僕のお気に入りだった。身よりもいなかったし、何より顔がいい。僕は美しいものが好きだ。もちろん、八重もね」  光流は藤の頬を撫でた。小さな手だが、何かをされそうで少し怖い。 「生まれつきセンチネルの能力を持っていた玖賀を甘い餌を与えて攫った。その頃は今の僕の姿のように幼かったな。髪を一括りにして結んでいたなぁ」  ふふふっと懐かしく笑う光流。藤は怖くなった。 「八重は館から逃げようとしているだろ」  ふふふ、とまた笑う光流。しくった……ここに来てから心が読まれていた。 「そんなことないよ」  藤は笑顔を取り繕う。頭の中で別のことを考えようとして赤面した。玖賀とのエッチを思い出したからだ。 「わー……八重ってえっちぃことが好きなんだねぇ。助平さん」  光流はずっと藤の頭の中を覗いている。 「ち、ちが……」  藤が否定する前に光流からキスをされた。ガイドの癒やし効果を求めているのか光流は舌を入れてくる。藤は噛まないように顔を背けた。 「ちょっと回復。玖賀に(みさお)を立ててんの? 別に玖賀は怒りやしないよ」  光流はしつこく藤に襲いにかかる。藤は光流を怪我させない程度に突き飛ばした。 「怒る、怒らないの問題じゃなくて……」  藤は光流にどう言おうか悩んでいた。頭の中を読まれている以上、言わなくても光流には伝わっている。 「ガイドはセンチネルの存在を癒やすもの。何の問題がある?」  悪気なく光流は言った。 「それはわかったよ。でも、光流くんはセンチネルだろ。それがどうしてガイドじゃなくてセンチネルである玖賀を攫う理由にあるんだ」  センチネルがセンチネルを攫う理由がわからない。センチネルはセンチネルを癒やす効果は持っていない。 「簡単じゃないか、僕の支配下に置くためだよ。当たり前じゃないか」  あどけない表情で光流は笑った。 「支配下……」  その考えはなかった。そうすると、今この館にはセンチネルが集まっていることになる。それは酷く恐ろしいものに思えた。 「そうだよ、センチネルの能力は厄介だろ。支配下に置く方が統制が取れる。現に陰陽寮がそうだろう? あれはガイドを集めて独り占めにした。僕と玖賀はね、鬼の国で生まれたんだ」  生き生きと話し始める光流。藤はとんでもないことに巻き込まれているんじゃないか、と思い始める。 「鬼の国……」  それはどんなものだろうか。どれほど、鬼が周りに存在しているのか。不安が巻き起こる。 「鬼にもセンチネルの能力を持っているやつと持っていないやつがいる。まぁ、センチネルの能力を持っているやつはほとんどいない。いや、生きてはいないかな。ガイドを求めて人里に下りるんだ。そこで不安定な人に宿ったりするんだけど、ガイドに寄生できなかったら自身を癒やすことができなくて原型を持たずに彷徨い、討伐されるか、闇落ちして妖怪になるか、神社で封印されたりとか……まともに鬼として生きているのは僕と玖賀ぐらいじゃないかな?」  光流は怪しい素振りを見せなかった。嘘をついているようには思えなかった。だが、光流にも藤が考えていることが伝わっているようだ。光流は苦虫を噛んだような顔をする。 「……玖賀は元、人間だって言っていた。光流くん、君はどこまで嘘をついている?」  一気に光流の存在が怪しくなった。藤は光流を警戒し始める。頭のことを読まれてもどうでもいい。どうせ、態度でわかっている。 「へぇ、僕の言っていることを信じてくれないんだ」  光流の目は赤く光っていた。途端、藤の身体に何かが起こる。    
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