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野良のセンチネル
「君、名前はなんていうの?」
藤は木の上にいる少年に話しかける。少年が持っている鉈は一本だけかと思っていたが、もう一本手にしていた。センチネルと言っても人だ。藤は攻撃する気になれなかった。
「正一」
少年が答えた。まだ幼い声だ。
「しょういち君か」
正一の目は赤く光ったままだ。いつセンチネルの能力を使ってくるかわからない。
「僕たちは正一くんの敵じゃない。能力に悩まされている正一君を助けに来たんだ!」
藤は木の上に立つ正一に向かって叫ぶ。正一はフン、と鼻で笑った。
「陰陽寮の支配下に置かれたくない」
正一は藤たちを見下すように答えた。
「あいつらは、わしらを集めるために陰陽師を集めている。センチネル同士は癒やすことはできないからな」
まだセンチネルと陰陽師を判別する方法は見つかっていない。陰陽師とセンチネル、互いに感じる匂いだけが頼りだ。藤は陰陽寮の派遣したセンチネルによって『陰陽師の素質アリ』と判断された。他人から言われなければ、藤は一生、陰陽師と気づかずに生きていただろう。
「……正一君がいない?」
藤が過去を振り返っている間に、正一は木の上から姿を消していた。玖賀を見れば、消えた正一を目で追っているようだった。藤は焦り、必死に正一の姿を探す。
草木が揺れ、木が軋む音はするが正一の姿をとらえることはできない。
藤が目を凝らして見た時、鎖は鉈で断ち切られ、正一に捕まっていた。
「ん?」
藤は正一に抱きかかえられて木の枝を飛び移り連れ去られる。
「待って、待って待って正一君!」
正一は藤の隊服を脱がしにかかる。藤は脱がされまいと必死に抵抗した。
藤は玖賀のように犯されると思い、のしかかってくる正一の身体を引き剥がそうとした。だが、力が強くて引き剥がせない。
「やっ!」
正一によって藤は隊服を脱がされてしまった。藤が驚いているうちに、正一はパクリと藤自身を咥えてしまう。
「えあっ?」
ジュクジュクとあたたかいものに包まれる。正一の舌が藤の鈴口をつつき、刺激した。
「ま、まってまってまってぇ……」
藤は抵抗しようとも咥えられては抵抗できない。もじもじと足をくねらせる。そうしている間にも、藤自身は爆ぜようとしていた。
「な、なんで咥えるの」
藤は気持ち良すぎて涙目になる。正一は陰嚢を小さな手で揉んでいた。正一は、藤自身に夢中なのか問いかけにも反応しない。
「も、もうイっちゃう……!」
藤は正一の口の中に吐精した。グッと背中を折り曲げて、正一の頭に抱き付く。正一はジュルジュルと出した精液を吸い付き、飲みこんだ。
ゴクリ、と藤の精液を飲みこんだ正一は口元を腕で拭く。
「鬼も同じことするだろう?」
「しないよ! するのはその……」
藤は正一に言っていいのか迷った。いや、前戯されているようなものだけど。
「マーキングか。よっぽど独占欲が強いのだな」
正一は藤自身を掴んだ。
「え?」
藤はしまおうとしていたので驚く。
「保存用にまたもらうぞ。早くしないと匂いを辿って鬼が来る」
「ほ、保存用……?」
藤は正一についていけない。ポカンとしているうちに、正一は藤自身を擦り上げた。
「あっ……まってまって正一くん!」
「待たない。時間がないんだ」
吐精したあとに、もう一度吐精する。そんなことはしたくなかった。藤は身体を翻らせて逃れようとするが、自身を掴まれているため動くと激痛が走る。
「こ、これ以上はでないからっ……!」
「出してもらわなくちゃ困るんだ!」
藤は正一が必死になる理由がわからない。ムズムズとお腹の中が熱くなってくる。
正一は懐から水筒のようなものを取り出して藤の先端へ当てた。
「お願いだから勘弁して……」
藤は玖賀がいる森に向かって手を伸ばした。ほぼ水のような精液が飛ぶ。
「ハァハァ……ハァ……」
藤の出した精液は水筒の中へと入った。藤自身はさすがに疲れ果てて萎えている。
「な、なんでこんなことを……」
藤はもう何もされないとわかると、脱いでいたズボンを上げた。
「言っただろう。センチネル同士は癒やせないって。これは仲間に持っていく」
「仲間がいるのか?」
藤は立ち上がろうとしたが立てなかった。正一のセンチネルの能力かもしれない。
「いない! わし一人だけだ!!」
正一は口を滑らせたのか、顔を真っ赤にして否定した。
「くそっ……知られては仕方がない。お前を連れて行く」
正一は再び藤に向かって手を伸ばした。
「それは困るな」
正一の手を掴んだのは玖賀だ。ミシミシと骨が軋む音がする。
「玖賀、待ってくれ。もう少し正一君の話を聞きたい」
玖賀が藤の言葉に止まった瞬間、正一は持っていた藤の精液入り水筒を振り回す。玖賀は避けて体勢を崩した。その隙に正一は玖賀から逃れる。
その時、藤の頭の中に正一の言葉が響いた。
――お前に新しい情報をやる。仲間のことは言うなよ。
「獅子色の髪をした男と会った。鬼と一緒にいる陰陽師に会えばいいって言われた」
藤は正一の姿を観察したが、嘘をついているような素振りを見せなかった。藤は浅草で会った獅子色の髪をしたセンチネルを思い出す。
――あいつは何を企んでいるのだろう?
正一はまた鉈を投げつける。玖賀は飛んで来た鉈を掴んで投げ返した。
カンッと木の幹に刺さる。正一は逃げたようだ。
「玖賀、正一君は僕のを咥えて精液を採取するだけで十分回復すると言っていたぞ」
藤は正一に教えてもらったことを伝えた。玖賀は苦虫を潰したような顔をする。
「そんな乳子ちちごみたいな真似できるか」
鬼とは言えども、玖賀にはプライドがあるようで。
藤は玖賀を目覚めさせたことを思い出す。
あんな公然セックスみたいなことをしなくても、精液を玖賀の口に含むだけでよかったのかもしれない。セックスすることに意味があったのか?
藤は首をかく。首輪がすれて、かゆい。
「玖賀、もうこれ外してもいいだろう? 首輪をしていても意味がなかったじゃないか」
「う……それもそうだな。外す……」
玖賀は少しは反省しているようで、藤の首輪を外した。藤は襟元を正す。チラリ、と鎖骨付近にある曼珠沙華の刻印が見えた。
――あ、意味があった。玖賀とセックスをしたあと、この模様が出てきたんだ。正一君に吸われたけど何の模様も浮き出ていないはず。
藤はこの場で裸になるわけにはいかないので、腕まくりをした。腕全体を見回すが、模様らしきものはない。
「玖賀、この曼珠沙華の模様って何か意味があるのか?」
悩んでいないで本人に聞いた方がはやい。玖賀は何年も生きているはずだから。
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