新しい務め

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新しい務め

 数日後、セスはスイの部屋に呼ばれた。  初めて狩りに参加した晩以来、二度目を誘う声がかかっていないことから何となく用件は想像できた。いくらスイが弟に対して寛容であるとはいえ、病気がちな父の後を継いで近い未来に(おさ)となる立場としては集落の若者たちから身内びいきで反感を買うことは避けたいに違いない。そしてあの日セスとともに狩りに出た面々は誰もが、勝手な行動で仲間からはぐれたセスへの不満を訴えただろう。  憂鬱な気持ちでセスが部屋に入ると、兄は隣に座るよう促した。普通ならば成人した兄弟が話し合うときにはもう少し距離を置いて向かい合うものなのだろうが、セスは筆談でしか意思疎通ができないから自然と隣に寄り添うことになる。 「セス、実はおまえに任せたい仕事があるんだ」  兄はためらいがちに口を開いた。やっぱりきたか、とセスは思う。  優しい兄は、単刀直入にセスに狩りからの排除を切り出してがっかりさせるのが不憫で、代わりに哀れな弟へあてがう仕事を探してきたのだろう。誰にも迷惑をかけないが、セスにはそれなりに集落に貢献しているという満足を与えるような仕事。しかし、そんな都合のいい仕事があるのだろうか。疑い半分にセスは訊ねる。  ——狩りに行く代わりに、その仕事をやれと?  兄だって、セスが思惑に気づかないほど鈍いとは思っていなかっただろう。わかってはいても単刀直入に問われれば、正直なスイは体裁の悪い表情を隠しきれない。その顔を見ればわがままを言うのも申し訳ないのだが、セスとしても整理のつけがたい気持ちをぶつける先は兄の他にいないのだから仕方ない。  スイは視線を泳がせながら、弟の機嫌をこれ以上損ねない方法を必死に探っているようだった。 「狩りは……そうだな、またいずれ時期がくれば行ってもらうさ。それよりも、どうしてもおまえに任せたい仕事ができたんだ。この集落のために大事な仕事だ」
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