新しい務め

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 これから一年間、〈神の使い〉は特別にしつらえられた部屋でもてなされる。世話役の仕事といっても特に難しいものではなく、そこに食事や酒を運び、体を清める手伝いをして、使いが暑いと言えば扇いでやり、寒いと言えば火をおこしてやり、ただただ使いの生活上の欲求を満たしてやるだけなのだという。  ただし、一年のあいだ使いの姿を集落の他の誰にも見せてはいけない。何も知らない子どもや、興味本位の不届き者が使いの部屋に入らないよう注意をすることもまた、世話役の仕事であるのだ。 「狩りに行くこと以上に大事な役目だ。誇っていい」  そう言って励ますように肩を叩かれ、セスはこくりとうなずいた。  狩りの仲間にのけ者にされることは寂しいが、新しい役割は心躍るものだった。優秀な兄も務めた責任ある仕事を任されるというのももちろんだが、あの褐色の男にまた会えるのだと思うとなぜだか嬉しい気持ちになる。  セスが口をきけないと気づいたときに驚きはしたものの侮蔑的な表情を見せなかったのは、あの男が神の使いだったからなのだろうか。カイたちに武器を向けられて目立った抵抗もせず言われるがままになったのも、彼が神の使いだからだったのだろうか。きいてみたいことはたくさんあった。  スイはすぐにセスを〈神の使い〉の部屋に案内すると言い出し、ちょうど夕食どきが近いからと、炊事場に食事の載った盆と酒の入った革袋を取りに行くよう申しつけた。川でとったばかりの魚を一匹丸ごと焼いたものに、山羊の乳を発酵させて作ったチーズなど、長の家の人間すらめったに食べられないような豪華な食事にセスは内心驚いた。  (おさ)の屋敷の裏から藪を抜けた先に、使いのための小屋がしつらえられているらしい。屋敷を出ると、どこかから賑やかな声が聞こえてくる。男たちのはやし立てるような声——セスがちらりと振り向くと、スイが言った。 「あの騒ぎが気になるか? カイがハミヤと結ばれるんだ。あいつは今回、使いを迎えるに当たって手柄を上げたからな」
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