新しい務め

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 集落で一番の美人だと評判のハミヤにカイが求愛しているのは誰もが知っていたことだ。プライドの高いハミヤは相手を決めかねて、これまでは思わせぶりな態度を取りながらもカイをうまくあしらっていたが、カイはあの褐色の男を捕らえたことで「〈神の使い〉を迎えた英雄」になった。英雄相手となればハミヤの態度も軟化するのだろう。  集落の若者は男女問わず比較的自由に体の関係を結ぶ。そのため特定の相手がいることを知らしめたい場合は、集落の成人の男たちの前で(ちぎ)るところを見せて自分たちが特別な関係であることを示す必要がある。そうすれば彼らは集落公認の関係となり、他の誰も横から手を出せなくなるのだ。だからカイは今夜、人々の前でハミヤが自分の女だと示そうとしている。 「あとでおまえも見に行くか?」  セスは左右に首を振る。若者の〈契りの儀式〉は集落内の娯楽としても消費されているが、セスはそんな儀式に関心はない。他人が息を荒げて絡み合うところを見て何が楽しいのか理解できないのだ。 「そうか。でも、おまえもそのうち相手を見つけないとなあ」  スイの呑気な言葉にセスはうつむいた。いくら(おさ)の息子だといっても、白痴と噂される自分の相手をしてくれる相手がこの集落にいるはずない。そんなこと兄だって知っているはずなのに……少しだけ惨めな気持ちに襲われた。  気まずい雰囲気の中黙ったまま歩いていると、小さな小屋が見えてきた。集落やその周りの森のことはよく知っているはずなのに、セスは今までここに建物があることをまったく知らなかった。まさか〈神の使い〉の部屋だから、魔法か何かで見えなくされていたのではないかと思ってしまうほどだった。 「さあセス、あの中に使いはいる。食事を渡して酌をとれ。食事が終われば、空いた食器を持って帰ってこい。今日すべきことは、それだけだ」  とん、と兄がセスの背を押した。もう「一年間」ははじまっていて、だから集落の人間はセス以外誰一人として〈神の使い〉の姿を見ることはできない。それが決まりなのだ。
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