たったひとつの方法

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「——俺が行く」  アイクがため息とともにそう言うと、スイが改まったように姿勢を正し「すまない」と深く頭を下げた。続けてクシュナンが、セスが頭を下げる。こんな態度を取られれば背中がむずがゆいような、どうにも居心地の悪い気分になる。 「気にするな。そもそも山や森には慣れているんだ」  頭をかいてそう言うアイクの横で、リュシカが小さく笑った。  そして、アイクとリュシカは予想通りの「僕も行く」「だめだ」の攻防を繰り返し、結局のところアイクが折れた。 「だって、アイクの身に何かあれば、どうせ僕みたいな無力で世間知らずな子どもは一人じゃ生き延びられないんだから、崖から落ちるなら一緒だよ」  リュシカは賢く育ちが良い分、学のないアイクよりも弁が立つ。理屈でやりあえば必ずアイクが負けてしまうのだ。ただ、アイクもわかっている。自分はきっとリュシカと一緒にいるほうが、リュシカを守らなければと思っているときのほうが強くなれるし、何だってうまくやれる。  聞いたとおりの深い山道を二人で歩く。途中、アイクはリュシカが「火の粉」を見たことがあるかもしれないと言っていたことを思い出す。 「さっき言っていた『火の粉』の話だが、確かなのか?」 「うん。王宮で一度、南の見世物芸人が珍しい芸を王に見せたいと言ってやってきたとかで。その人が手を振ると大きな音がして、何もない場所にはじけるみたいに光と火が飛び出すんだ。しかもその火は赤とか青とか黄色とかいろんな色をしていて。すごくきれいだったけど、ちょっとだけ怖かったな」 「たかが見世物芸人にそんなことができるのか? 魔法使いの間違いなんじゃないか?」  岩を削った粉を混ぜ合わせたもので、そんなことができるとはとてもではないがアイクには信じられない。だが、リュシカは確かにそのときも「火の粉」を使った仕掛けだと聞いたのだという。実際にクシュナンもそれを生業にしていたという以上、不思議な「火の粉」は実在すると信じるしかなさそうだ。
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