神を屠る庭

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 二人は少し離れた場所に座って、にぎやかな人々を眺め続けた。あまり近づけばまたよそものだなんだと文句を言われるだろうから、人々の輪には入らない。一度、二人の姿を見つけたカイが寄ってきたが、思い通りセスの排除に成功したからか、それとも酔っ払っているからか、やたら機嫌が良く「よう、脚の具合はどうだ」と絡んできただだけですぐにどこかへ消えてしまった。  日が落ち、やがて祭りは終盤にさしかかる。  広場に現れたスイが再び鳴り物を叩くと、それを合図に女や子どもがぞろぞろと家へ向かって歩き出す。中には帰るのを嫌がってぐずる子どももいるが、担ぎ上げられ広場からは連れ出されてしまう。ここからは、いよいよ祭りの最終盤だ。  さすがにこの先をのぞくことはよそ者には許されないだろう。アイクとリュシカはあらかじめスイに教えられた建物の影に身を隠し、そっと広場の様子を見守ることにした。  ここで今起ころうとしていることに、自分やリュシカの直接の利益は関わっていない。なのになぜこんなにも不安な、落ち着かない気持ちになるのだろう。そんな気持ちが気づかれてしまったのかリュシカがふとアイクの分厚い胸板に手を当て、その鼓動の早さに笑った。アイクが仕返しに彼の薄い胸に手を当てると、リュシカの心臓も同じくらいの早さで鳴っていた。  どうか、うまくいきますように。  そう強く祈った瞬間、誰かが叫んだ。 「〈神の使い〉が来るぞ!」  人々の視線を追うと、森から広場に続く道をふたつの人影が歩いてくるのが見えた。布を被った中肉中背の男は右手に松明をかかげ、左手にロープを持つ。そのロープの先は彼について歩く大柄な男——クシュナンの拘束された両手首につながっている。二人は月明かりに照らされてしずしずと歩き、やがて広場の真ん中までやってくる。  人々はようやく目にした〈神の使い〉の姿に、ため息をもらして地面にひれ伏した。  改めて見ると、クシュナンは何もかもがこの集落の人間とは違っている。褐色の肌に輝く漆黒の髪、真っ青な目、どれもこのあたりでは見かけないもので、だからこそ人々はより強く神々しさを感じているのかもしれない。 「使いを、祭壇へ」  スイがそう声を上げると、布を被った男がクシュナンを祭壇に上げる。そしてロープを祭壇の(はり)に結び付けてから——おもむろに自らの頭を覆う布を取った。
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