神を屠る庭

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 瞬間、人々がざわめいた。ひれ伏していた頭が次々起き上がり、不審そうな表情で互いに顔を見合わせる。 「なんだ、あれは。セスじゃないか」 「あの白痴、逃げ出したっていう噂は嘘だったのか?」  人々のざわめきは耳に入っているだろう。少し緊張した面持ちで、しかしセスはしっかりと顔を上げて観衆を見回した。あまりにその態度が堂々としているので人々のどよめきも少しずつ収まっていく——そのときだった。 「話が違うぞ」  大きな声を上げたのはカイだった。 「スイ、あいつはここを出て行ったんじゃなかったのか。それが祭りに協力する条件だったはずだ。なんであそこに立っているんだ!」  その声に、人々が戸惑ったようにカイを見つめる。何らかのやりとりがスイとカイの間にあって、そのせいでセスが集落を一度は去ったことを彼らはここで初めて知ったのだろう。だが、スイは落ち着き払ってカイを一喝した。 「聖なる儀式の途中に騒ぐな、不謹慎だぞカイ。もう少しだけ待て。祭りの最後まで見届ければ、後は何だって好きにすればいい」  (おさ)の後継者であるスイと、若者のリーダー格であるとはいえただの集落の一員であるカイ。ここで言い争いをはじめれば、必ず話は割れる。しかも、神聖なる山の神の祭りの最中に騒ぎを起こせば、それを良く思わない人間も出るだろう。ここはいったん引いた方がいいと判断したのか、カイは不承不承黙った。  クシュナンが黙ったまま祭壇にひざまずくと、セスは壇上に置かれた巨大な鎌をゆっくりと手に取った。この儀式のときのためだけに作られ、この日のために鍛冶の手でぴかぴかに研がれたという大鎌。この美しい凶器は、これまで何人の〈神の使い〉——いや、〈神の使い〉に仕立て上げられた哀れな旅人たちの血を吸ってきたのだろう。  月明かりを反射して、まぶしいほどに鎌が光る。セスの表情はおそろしいほど落ち着いている。うつむいたクシュナンの表情は見えない。  セスが鎌を振り下ろす。その切っ先が本当にクシュナンの首筋を捕らえてしまうのではないかと、一瞬背中が冷たくなる。腕の中でリュシカの体も緊張のあまりぎゅっと固くなった。  次の瞬間、空気が割れるような大きな音がして同時に閃光が闇を裂いた。
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