神を屠る庭

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「……っ……」  この場で起こることについて事前に聞かされていたアイクだが、それでも信じられなかった。何もない場所に色とりどりの光が爆ぜ、炎が燃え上がり、打ち上がった火の玉が次々と天高くはじける。それは、まるで夢のような光景だった。  本当にこれが神でも魔法使いでもない人間の仕業だというのか。もしかしたらクシュナンは実は本物の〈神の使い〉なのかもしれない、そう思ってしまうほど、何もかもが現実離れしている。 「すごい。王宮で見たのより大がかりだし、すごくきれいだ」  リュシカがため息を漏らす。  人々はただあっけにとられていた。スイが言うには、彼らのうち誰一人として「火の粉」を知らないし、それを使った火の見世物を知らない。だからきっと、それを〈神の使い〉の起こす奇跡だと信じるだろう。実際に、口をぽかんと開けて人々は言葉もなく祭壇を、そこから闇夜に打ち上がる花のように美しい火を眺めている。  やがて、どこからか声が聞こえた。——クシュナンの声だ、とアイクは思う。 「我は、山の神より遣わされし者」  その声に人々がはっとしたように表情を変える。色とりどりの火と煙に取り囲まれて、祭壇の様子は見えない。ただ、声が聞こえるだけだ。 「この一年にわたる皆の者の献身に感謝する。また、長きにわたって五年に一度、多大な犠牲を払い信仰を示すそなたたちの忠誠を、我も山の神も十分に理解した」
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