手の鳴る方へ

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「音がするぞ。こっちにいるんじゃないか?」 「おい、セス。いるのか!」 「まったく世話が焼ける奴だ。あいつが(おさ)の息子でなければ放っておくんだがな」  どうやらセスを完全に取り残したことに気づいた仲間たちが探しに来たらしい。騒々しい声と足音はどんどん断崖へ近づいてくる。  集落の男たちがこの見知らぬ男を見つけたとき何が起こるのかセスには想像もつかなかった。道に迷った哀れな旅人を正しい場所まで送り届けてやるのか、それとも身ぐるみ剥いで放り出すのか。セス自身はこの男になんとなく興味を引かれていたし、何より彼が悪い人間ではないはずだと思っている。できることなら助けてやりたい。 「おまえの仲間なのか?」  近づいてくる声に警戒して、男はセスの背後に広がる森をじっと見つめる。セスが素早くうなずくのとほとんど同時に藪を抜けて集落の男が現れた。それはカイと呼ばれる若者グループのリーダー格の男だった。 「おい、こんなところで何勝手なことをしてるんだ! この白痴!」  セスに向けて怒鳴り声をあげたところでカイは見知らぬ男の存在に気づいたようだ。すかさず狩りのために持っていた弓をつがえて褐色の男に向ける。続いて現れた仲間たちもカイに続いて武器を構えた。慌てたセスはカイに駆け寄り両手をばたばたと振りながら「彼は敵ではない」とアピールをするが、一切相手にしてもらえない。  カイは弓をつがえたまましばらく月明かりに照らされた男とにらみ合っていたが、やがて不敵な笑みを浮かべてつぶやいた。 「こりゃあ、今日は運が良い。まさか〈神の使い〉に巡り会えるなんてな」  セスにはその言葉の意味がわからなかった。
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