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神の使い
その晩の狩りは奇妙な終わりを迎えた。カイは断崖にたたずむ褐色の男を〈神の使い〉と呼び、仲間に協力させて捕まえにかかった。敵意もなさそうな見知らぬ男に乱暴をする意味がわからず、何かの誤解があるのだろうと思ったセスは止めに入ろうとする。だがカイは舌打ちをしてセスを突き飛ばした。
「邪魔するな白痴。おい、誰かそいつを捕まえておけ」
その声を受け、仲間のひとりがセスを背後から抑えこんだ。動こうとすると腕をねじられ、あまりの痛みにセスはそれ以上抵抗することができなかった。
月明かりの下、カイは褐色の男に向けた弓をじりじりと絞る。その背後から遅れてやってきた集落の若者たちが、状況をよく理解しないままにカイに追従する。
褐色の男は険しい顔でカイを睨んでいる。一歩、二歩後ずさると、その背後でぱらぱらと音がして地面から剥がれた岩が崖の下に落ちていく。男は腰に大きなナイフを下げているが、多勢に無勢で意味はないと思っているのか武器を手にすることはしなかった。
セスは男が崖から飛び降りてしまうのではないかと不安になった。どうやらカイも同じことを考えたようで、男に向かって猫なで声を出す。
「おい、妙なことを考えるな。ただ俺たちの集落に連れていくだけだ。おとなしくすれば傷つけない。それとも毒矢をくらいたいか?」
十人以上の男たちから弓や槍を向けられしばらく褐色の男は迷っているようだったが、やがて腰のナイフを素早く手に取ると崖の下に投げ捨てそのまま両手を頭の上に掲げた。投降のポーズに、しかし警戒は解かずに集落の若者たちはおそるおそる包囲網を狭めて一気に褐色の男を引き倒すと、その両腕を後ろ手に縛り上げて歓声をあげた。
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