神の使い

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 セスは一連の流れを理解できないまま眺めていた。確かに自分たちは今夜狩りに来たわけだが、獲物として求めていたのは食料となる動物たちだったはずだ。人間を狩るとは聞いていない。なのに、褐色の男を捕まえたカイをはじめとする若者たちは、柔らかい若い鹿や大きなイノシシを捕まえたとき以上に興奮し誇らしげにしている。 「今度は勝手にどっかに行くんじゃないぞ」  そう言われて帰りはずっと腕をつかまれていたセスは、集落へ戻るとそのまま家まで送り届けられた。狩りの仲間が迎えに出て来た兄嫁に何やら耳打ちして、彼女は申し訳なさそうに何度も頭を下げた。セスが狩りの途中ではぐれてしまったことを告げ口されてしまったのかもしれない。  部屋に戻り、ぼんやりと夜の余韻にひたる。  夢のようだった。どこからか聞こえてきた手の鳴る音。その先にいた褐色の男。月に照らされて涙を流していた青い瞳——そして、彼を狩りの獲物のように捕らえてしまったカイたち。一緒に集落まで連れてこられたあの男は、これからどうなってしまうのだろう。ぼんやりとそんなことを考えるうちに、セスの耳はひたひたと近づいてくる足音をとらえる。この音は、兄のスイ。やがて足音はセスの部屋の前で止まる。 「セス、起きているか。入るぞ」  いいよ、と答える代わりにセスは壁をこつりと叩く。  扉を開けて入ってきた兄は物言いたげな様子だった。きっとさっき仲間から告げ口された内容を兄嫁から聞かされたのだろう。セスのことをよく思っていない仲間たちは、セスが勝手な振る舞いをして集団からはぐれたことを騒ぎたて、二度と狩りに参加させないよう頼んできたのかもしれない。  セスの隣に座った兄は、酒の入った壷と二つの盃を床に置く。盃になみなみと濁り酒を注ぐと、うちひとつをセスに勧めた。 「とりあえず、初の狩りから無事に帰ってきたんだ。祝い酒だよ」
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