神の使い

5/5
前へ
/142ページ
次へ
 山の神のための祭り、その存在自体はセスも知っている。五年に一度盛大に行われる祭りでは人々が歌い踊り、存分に飲んで食って、子どもたちも美しい鳥の羽で美しく身なりを飾ってはしゃぐ。この集落では一番のイベントで、人々は祝祭の日を楽しみにしているといって良い。  だが、スイの話を聞いて改めて思い返してみれば、祭りの日にはいつも一定の時間になると女と未成年は先に家に帰された。もう少し遊びたいとごねる子も「ここから先は大人の男だけで行う神聖な儀式だから」と、決してその先を見せてもらうことはできなかった。あの先にあったのが〈神の使い〉のための儀式だったのだろうか? 神のもとへ返すとは、どうやって?  疑問が湧き上がるが、これ以上儀式について訊ねるときっと兄は答えに窮してしまうだろう。  セスは集落の中で一人前の大人として認められることを願いながらも、いまの自分が人並みに役に立てていないことを理解していた。だから、大人たちにとっての大切な儀式の内容についても、兄が自ら話さない限りはセスから訊ねるべきではないのだと。それはほとんど確信で、優しい兄を困らせたくないセスはすべて心の中に押しとどめた。代わりに、今一番気になっていることを石板に書きこむ。  ——あの人は、本当に〈神の使い〉なの?  兄は再び壺に手を伸ばす。盃の半分ほどを満たしたところで壺の酒は尽きてしまった。それを一息に飲み干すと首を左右に振って言った。 「それは今、父さんや長老たちが見極めているところだ」
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

541人が本棚に入れています
本棚に追加