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それは、本当に偶然だった。
『自分の真逆』が居るだなんて。
2年生になったある日の夕方、学校帰りにボクは背後から声を掛けられた。
「あの……ちょっといい? 『2組の有名な人』ですよね?」
振り返ると、そこにいたのは上背があって整った顔立ちの男子だった。
怯えるような目で、おずおずとボクを見つめる。苦しそうな、救いを求めるような、不安で堪らないのを隠せていない。
「有名?……まぁ、多分そうだと思うけど」
おそらく、影では色々言われているんだろうなぁと思う。仕方ないけどね。とりあえず、自分の耳にさえ聴こえないなら構わない。聴こえてきたらブッ飛ばしてやろうと思うけど。
「実は、相談がある……んだ」
そう語る彼は、小刻みに身体が震えていたと思う。
「……相談?」
見ず知らずの人間から言われて、何か良い話があるとは思えないが。
「あな…君は強い人だよね。自分から『心が男だから男の振る舞いをする』って言えるんだから。私は……怖くてそれが言えなかった……」
気のせいか、眼が潤んでいるように見える。
「え……それって、あれか? もしかしてお前はボクの『逆』だってのか?」
ボクは半身だった身体をそいつの方に向き直った。
「うん……怖くて……人には言えないけど」
だけど。
いや、ボクは強い訳じゃない。ボクのは『強がってる』だけだ。そうしないと、心が押し潰されそうになるから。
不安のない日、苦しくない日なんてただの一日だってありゃしない。
心と一致しない、『女として成長する』この身体がひたすらに恨めしい。
そこは小さな川の、橋の上。
夕焼けのせいなのか、頬が真っ赤に染まっている。
それが、そいつとの出会いだった。
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