脱走

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嫌いではないけれど。 「あの…あなたは…?」 「瑛、だよ。」 「えい…さん?」 ハンドルを握る瑛は、くすくす笑っていた。 こ…こわいよー。 変に抵抗して、なにかあっても困る。 車は永遠に走り続けるわけではないのだし、どこかで止まったら、逃げよう。 そんなことを考えていたら、 「車はロックされてるから。」 と言われる。 どうしよう、さっき一瞬でも、ちょっと整った顔かも、なんて思った自分を殴ってやりたい。 琴音ちゃん、ごめんね。 人にお見合いを押し付けたりなんかしたから、バチが当たって、こんなイケメンと車に乗る羽目に…。 て、ん? 変…?? 彼女は、大人しく車に乗ってきたものの、かなり戸惑っているようだ。 この様子からすると、恐らくは見合い相手だったろう、と思うのだが、瑛には、確かめる術がない。 ごめんなさい、と言う様子に、自分を一体、誰だと思っているのだろうと考える。 瑛だ、と名乗っても分からないようだ。 もしかして、彼女は見合い相手の名前すら知らないのか? 絢音のあまりにも戸惑った様子に、瑛はそう確信した。 自分は彼女を見合い相手、と分かっているけれど、彼女はそれを知らない。 そして、自分のことを誰かも知らない。
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