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けれど、瑛にしてみれば、仕事は真面目にしているのだし、せめてプライベートには口を出さないでほしい、というのが正直なところなのだ。
いいお話…ねえ…。
瑛がにっこり笑えば、確かにその辺の女性ならば、なんでも言う事を聞いてくれる。
母もいつもなら、『もう、瑛さんは仕方ないですね。』と言ってくれるところだが、今日はそれでは引かない、と覚悟を決めてきているようだ。
「聞きますよ。」
どうするかは後で考えるけどな。
とは口には出さない瑛だ。
「武田家のお嬢さんとのお見合いの話があります。わたくしの、お華のお稽古が一緒の方で、旧家のとても旧いお家です。」
「そうなんですか。」
腕組みをしたまま、にっこり笑う、瑛だ。
母らしい、と思う。
「あなたはそういうのお嫌いでしょうから、お仲人さんは入れていません。先方も、決まったお話とは思っていないようですし。けれど、会ってはいただきますよ。」
『そういうのが、嫌い』
もちろん、母は瑛のことを分かってはいる。
けれど、会っては頂きます、と言い切るところに、母の本気を感じる。
瑛は軽くため息をついた。
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