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『律』
「瑛…聞いたよ」
一言で、電話の内容が何であるか理解していると瑛に伝えた。
『回避したい』
「まあ、そんな気はしたよね。」
瑛が黙って見合いに向かうなど無いに等しい。
『いずれ結婚するのは構わないけど、親のお膳立て、なんてゴメンだね。運命の人といつか逢える、なんて乙女な事は考えてないが、今は遠慮したい』
「断れば」
『お前、聞いたんだろ?お母さん、本気過ぎて怖い』
「まあ、確かに」
『律、俺の代わりに出て、断っといてくれない?』
まさか、そう来たか。
「はあ?!ふざけんなよ。俺だって、やだよ」
『少し前に、女と手切るの、手伝ったよなぁ…』
そう言われれば黙り込むしか無かった。
「……、あの時は、瑛もいい思いしたって、聞いたけど?」
『でも、協力、したじゃん。今回は助けてよ。』
今日何度目かの深い深い、ため息を意図せず吐いた。
「……で?」
『代わりに出てくれるだけでいいから。断るのは、俺が終わった後に断るから』
「絶対に自分で断れよ?俺は行くだけだからね。」
『それだけで充分!』
「あと、これであの時の借りはなしだから!むしろ、今回の件も貸しにしたいくらいだよ。」
『貸しでいいよ』
半ば諦めで電話を切った。
たまたま先に瑛に来た話ではあるが
明日は我が身。
一昔前なら、後から産まれた方が長男だったわけだ。 ……俺だったかもしれない。
そう思うと……
全く、仕方がない。
成るように、成る……か。
どのみち断るのだから。
今回の事で、母親が俺達に見合いは無理だと諦めてくれるといいが……。
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