3090人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
時間は少しだけ戻る。
貸しを逆手に律に見合いに行かせたものの、欠席したら、面倒だ。
また、母が怒り狂うし、父の取引先でもあれば、先方に迷惑がかかるのも申し訳ない。
今回の話には父は関係ないのだから、仕事には迷惑は掛けたくない。
実は、そう思っていた瑛は、念の為、スーツを着て、ホテルにまでは行っていた。
律が来ればよし、来なければ、やはり、行かなくてはならないだろうと、思ったから。
律の車が駐車場に入ったのを見て、一応、約束のレストランに入るのを確認した。
さすが、真面目で助かる。
本当なら、ここまで来るのなら、行けばいいのかもしれない。
けれど、あの、母に従うのはどうしても嫌だったのだ。
いい家柄のお嬢様なんて、世間知らずで、わがままで、めんどくさいだけだろ。
そのくせ、家柄を鼻にかけるような奴とは、付き合いたくない。
はなから断るだけの予定の見合いなのだし、と踵を返したその時、ちょろちょろっと、怪しげな動きをする女の子を見つけた。
それは、今から瑛が使おうと思っていた従業員通路だ。
そこを瑛が知っているのは、昔、短期ではあるが、このホテルでバイトをしたことがあるからだ。
瑛の身柄を知らないところで働くのは楽しかった。
愛想も良くて、人当たりもいい瑛は、ぜひここで働いてくれ!と言われたが、
すでに父の会社に入ることを決めていたから、断った、という経緯がある。
最初のコメントを投稿しよう!