絢音のプロローグ

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絢音のプロローグ

絢音(あやね)ちゃん?」 お茶の時間の母の猫なで声は、警戒するものと相場が決まっている。 武田家の午後のダイニングである。 テーブルには、お菓子と、紅茶。 優雅なアフタヌーンティーの時間だった。 武田家は、明治だかなんだかに、海外との貿易で、財を生した、という家である。 世が世なら、お貴族様のお姫様、であったのがここにいる武田絢音(たけだあやね)と、武田琴音(たけだことね)だ。 2人はこの武田家の娘、で双子なのだった。 旧家の娘として、箱入りで育てられた2人は、美人姉妹としても、名高い。 たおやかな見た目と、さらりと長い髪。 立てば芍薬、座れば牡丹…を地でいく姉妹だ。 見た目には、全く瓜二つの2人なのだが、性格は結構違う。 それでも、仲はとてもいい。 絢音は、澄ました母の顔を見る。 怪し過ぎる、このお母様の澄まし顔! まさか、琴音ちゃんは何か知ってるの?! 琴音を見ると、琴音は知らないよ?と言うように、首を軽く横に振った。 だからっ…だから、今日は、こんなにお茶菓子が、やたら高級で、美味しそうなんだぁぁ。 心の中で、歯ぎしりする絢音だ。 絢音がこれならば、席を外せないと知っている母のやり口なのだ。 す…っごい美味しそうな、ガトーショコラなんだもんっっ。 濃厚そうな濃いチョコレート色に、軽めのホイップ、さらに、オレンジソースまで、添えてある。 「いいお話があるのよ?」 「結構です。」 絢音は即答する。 「そんな事言って、何度目なの?もう、今日という今日はそれは許しませんよ。」 顔は笑顔だけれど、お母様っ! 目の奥が笑っていません! あ、マジなやつだ…。 お客様用の美味しいお茶は、お手伝いさんもグルだということを実感するものだ。 「お付き合いしている人はいるの?」 にこにこしながらも、母は痛いところを突いてくる。 「いません。」
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