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瑛のプロローグ
「瑛さん、そろそろ身を固めなさい。」
休日の、一人暮らしの、マンションに母が来たら、ろくな話ではないだろうとは思ったが、よりにもよって、これか。
東条瑛はいつも、整っている、と言われるその顔に、笑顔を浮かべた。
「その笑顔には騙されませんよ。」
ちっ…。
心の中で舌打ちする瑛だ。
さすがに母は、誤魔化されてはくれないらしい。
「いいお話ですよ。」
「日本昔ばなしですね?」
「瑛さん、ふざけている場合ではありませんよ。」
どうやら、相当に真面目なお話らしい。
東条家は瑛の父が、システム開発で財を成した家だ。
母が嫁に来た当初は、多少の苦労もあったようだが、時代の流れもあり、父の作ったシステムは大会社にも採用され、お陰様で、瑛はお金には苦労はしたことはない。
今も父の会社で取締役として勤務しているが、父は健在だし、ある程度、会社として軌道には乗っているので、優秀な人材も確保出来ている。
おかげで、会社経営はスムーズだ。
なのに、家業を継ぐはずの瑛は、仕事は真面目だが、プライベートに関しては、お世辞にも真面目とは言えない。
その立場を利用して、浮名を流し放題なのが、母の頭の痛いところなのだろう、と予想はつく。
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