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律のプロローグ
「ああ、律さん?あなたにも報告をしておこうと思って電話したのよ」
母親からの電話はあまり歓迎されたものではない。
仕事終わりの一息着いた時間は一瞬で憂鬱なものに変わった。
「ああ、何でしょう?」
「瑛さんのお見合いが決まりましたからね」
兄の話とあって、ホッとしたのも束の間
「貴方にも言えることですからね……」
続く母親の小言に、耳に当てたスマホを離してため息を吐いた。
東条家は父が、システム開発で一代で財を成した家ではあるが……既に安定している。
我々兄弟が適齢期という時期に差し掛かるや否や
母親は顔を合わせると結婚の二文字を口にするようになった。
如何に、相手が重要であるか。
やがて、それだけに留まらず、良家との縁談を持ち出すようになった。
父の築いた地位を、良家との結婚という後ろ楯を得て、確固たる地位まで上げたいのだろう。
意外に野心家だった母に苦笑いする。
母が、『貴方にも言えることですからね』
そう言ったのは最もで
何故なら俺達兄弟は
同じ日に産まれた双子だからだ。
同い年……
たまたま、先に産まれた瑛に話が行っただけで
瑛が片付けば、間もなく俺に矛先が向くのだろう。
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