脱走

1/5
3081人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ

脱走

琴音に、まんまとお見合いを押し付けた絢音は、廊下にささっと隠れる。 廊下の先に両親の声がして、慌てて従業員入り口に隠れた。 「お客様?」 (いぶか)しげな低い声が後ろから聞こえた。 絢音はびくん、とする。 「はい!」 そっと、振り返ると、スーツ姿の男性が立っていたのだ。 綺麗に整った顔で、口元は、にこっと笑っている。 「どうかされましたか?」 「え…っと、すみません、ちょっと迷ってしまって…。」 お客様、というからにはきっと従業員なのだろうけれども。 男性には、妙に隙がない。 絢音は、作り笑いをして、その場をごまかそうとすると、その男性に手を掴まれた。 「こちらは従業員用の通路です。困りますね、こんなところに迷い込まれては。」 先ほどまで、笑顔だったはずの男性は、急に厳しい顔で絢音を見る。 ど…どうしよう。 怒られちゃうのかな。 男性は手を繋いだまま、通路をずんずん進んでいって、従業員用のエレベーターに、何も言わずに、絢音を乗せた。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!