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脱走
琴音に、まんまとお見合いを押し付けた絢音は、廊下にささっと隠れる。
廊下の先に両親の声がして、慌てて従業員入り口に隠れた。
「お客様?」
訝しげな低い声が後ろから聞こえた。
絢音はびくん、とする。
「はい!」
そっと、振り返ると、スーツ姿の男性が立っていたのだ。
綺麗に整った顔で、口元は、にこっと笑っている。
「どうかされましたか?」
「え…っと、すみません、ちょっと迷ってしまって…。」
お客様、というからにはきっと従業員なのだろうけれども。
男性には、妙に隙がない。
絢音は、作り笑いをして、その場をごまかそうとすると、その男性に手を掴まれた。
「こちらは従業員用の通路です。困りますね、こんなところに迷い込まれては。」
先ほどまで、笑顔だったはずの男性は、急に厳しい顔で絢音を見る。
ど…どうしよう。
怒られちゃうのかな。
男性は手を繋いだまま、通路をずんずん進んでいって、従業員用のエレベーターに、何も言わずに、絢音を乗せた。
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