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ある少年はその人のことを、恐ろしい、と言った。
ある老人はその人のことを、美しい、と言った。
ある女子高生はその人のことをいつも考えていて、その女子高生の隣の席に座る男子はその人のことを思い出したくなかった。
その人はいつだって皆の味方だった。そしていつだって皆に悪夢を見させた。
その人はいつも気まぐれで、呼んだってやってこない癖に、会いたくないときにひょっこり現れたりした。
彼の姿を見て泣き出す人もいれば怒り出す人もいた。頬笑む人もいれば、ただ呆然とする人もいた。
だけど気まぐれなその人は、そんなこと気にする素振りは見せず、彼の好きなときに好きな人のところへ現れた。
生まれたばかりの赤ん坊のもとにも、新品の桃色のランドセルを買ってもらったばかりの少女のもとにも、夢を叶えた若い青年のもとにも、本を読むのが好きな女のもとにも、妻に先立たれた独り暮らしの年老いた男のもとにも、彼は現れた。
そして私はある日、生まれて初めてその人に出会った。
私はその人のことをずっと前から考え続けてきた。
その人のことは好きでも嫌いでもなかった。だけど、その人のことを考えると恐ろしくて眠れない夜があった。疲れ果て、その人に恋い焦がれたときもあった。
それなのに、気まぐれなその人は、私が忘れた頃にやってきた。
その人は私の想像したよりもずっと大きくて、ずっと優しくて、ずっと残酷で、ずっと美しかった。
その人は
「はじめましてこんにちは。私は''死''です。」
そういって、優しく私に微笑んだ。
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