雨とダイヤモンド

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 私はクラスの一番後ろの席に座っている。  だから、彼がいつも、それこそ呼吸をするのと同じくらい本を読んでいることも知っている。休み時間はもちろん、授業中も、隙があればどこでも文庫本を開いて読書を楽しんでいる。  いつだったか、先生から授業中に名指しで指名されていたことがあった。  その時もいつもと変わらず読書をしていたはずなのに、不思議と先生の質問にはスラスラと答えていた。なぜそんなことが出来るのか。不思議に思った私は、ある日の放課後、こっそりと彼を尾行することにした。  彼が向かったのは、数年前に廃校になった旧校舎だった。取り壊されることなく残っていたそこに、平然と入っていく。  いやいや、不法侵入でしょ。そんなことしていいの? よくないよくない。  彼のいきなりの不審な行動に、私は思いっきり動揺してしまう。後をつけるかどうか一瞬の逡巡。ええい、どうにでもなれ。私はその後を追いかけて、すっかり寂れた校舎の中に入り込んだ。  湿っぽい埃とカビの匂い。床は木のタイルで、所々、木目が黒ずんでいる。自分の足音が静かな校舎にやけに響いて自然と忍び足で歩いてしまう。  窓の外は曇り空で、雨が降り出す気配はないけれど、旧校舎の中まで少し肌寒い。  いったいどこに行ったんだろう。私が後をつけてきたことを知ったら逃げ出してしまうだろうか。  一度旧校舎の中に入り込んでしまうと、今度は不思議と冒険しているようなワクワク感に包まれる。悪いことだとは知っているけれど、何故かこの非現実的な状態が楽しくなりつつある。
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