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だけどヘタレな俺はその会で彼女に話しかけることができなかった。もちろんチャンスは狙ってたものの、入れ替わり立ち代りいろんな人が亜実と喋っている。俺も久々に再会した友人との昔話に花を咲かせていればあっという間にお開きになった。
「惠ちゃん」
二次会に流れる組と帰宅組に別れる。そんな時背後から懐かしい声に呼び止められた。
振り返れば亜実が立っていた。思わず立ち止まると彼女はあの頃と同じく隣に並び、人波に倣うように俺たちは出口に向かって歩きだした。
「二次会行くの?」
「うん。亜実は?」
「行かない。ちょっと予定があって」
その予定って何?
あの頃なら躊躇うことなく訊けたのに今はそんな間柄ではない。そのことに少し胸を痛める。
今更かよ、なんて思うけど
卒業してまともに会話したのが今日だ。
改めて長い年月を感じた。
「……ちなみに明日は何か予定ある?」
そろそろ、と訊ねてきた亜実の顔を思わず凝視した。余程俺が変な顔をしていたのか、亜実は慌てて付け加える。
「ふ、深い意味は無くって。ただ、その…」
深い意味はねぇのかよ、と思わず突っ込みそうになった。けど、そんなこと言えば期待しているみたいだ。
「……空いてる、けど何時?」
その時ふと左手に目が止まった。薬指にはめられたシンプルな指輪が控えめに主張する。
前言撤回したいのに、俺の言葉にパァッと花が咲いたように笑う彼女を見て、自分の首を自分で締めたんだと後悔した。
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