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約束は午後二時だった。
ランチでもなく、飲みでもない、いわゆる超健全な時間帯。
待ち合わせ場所は付き合っていた当時、よく行った喫茶店。今はお洒落なカフェになっている。ただ、同じ場所だ。
「久しぶり。元気だった?」
「うん」
俺は恋人と別れたからといって友達に戻れるタイプではない。少なくともこれまで付き合ってきた女性とは別れて以降連絡をとったことはなかった。
だから亜実は特別。
俺の人生最初で最後の特別な恋だ。
きっともうこんなにも胸を焦がす想いをすることもないだろう。
亜実の話を聞きながらもう戻らない時に想いを馳せた。
そろそろ、と席を立ち上がったのはちょうどカフェに入って二時間ほど経った頃。
正直何を話したのか覚えていない。
それほど俺はあの時にタイムスリップして
後悔と彼女への想いでいっぱいいっぱいだった。
「送るよ」
「え?いいよ。そんなの、まだ明るいし」
「いいから」
俺はただ少しでも長く彼女の傍に居たかっただけだ。左手の薬指を彩るそいつを見ないふりして、自宅とは反対方向へと歩きだした。
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