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きみに捧ぐ愛は今も
あれから一年、俺たちは日本とアメリカの遠距離恋愛を経て同じ家で暮らし始めた。
亜実はアメリカでの仕事を全て片付けると新天地として東京で仕事をすることを決めた。
そのタイミングで俺も異動になり、亜実より半年ほど早く東京で赴任することになった。
「んー、いい匂い。何作ってんの?」
都心から少し離れた低層マンションの三階に俺たちの住まいがある。3LDKと部屋数が多いのは将来を見据えたものだ。
一応、結婚を前提に付き合っていることの報告と同棲の了承を得るため両家にはすでに挨拶をしている。
うちの親も亜実のご両親も飛び上がって喜び、こちらが戸惑うぐらい快諾してくれた。
「オムライス。惠ちゃん好きでしょ?」
「うん。好き。ってか亜実が作ってくれるものなんでも好き」
「もうっ」
こんなベタな会話が楽しくて仕方がない。
寝起きで、まだパジャマのままエプロン姿の亜実を後ろから抱きしめた。
そして、ふと目についたものを ちょんと、指で突っつく。
「……てか、いい加減外せよ、それ」
「いやよ。わたしのお守りだもん」
再会した時から嵌めていた指輪は、昔夏祭りのハズレ賞であたったおもちゃの指輪だ。上の飾りが取れてただのシルバーリングになったが、そんなことすっかり忘れていた俺は亜実から聞いて思わず「覚えてねぇわ」と座り込んだ。
その時のことを思い出したんだろう。亜実は半笑いになりながら俺の言葉を否定した。
「着替えてくる」
俺はその場から離れるとTシャツとデニムに着替え再びリビングに戻った。
そして、卵を溶く亜実を背後からもう一度抱きしめる。
「それ、置いて」
手に持つボウルを指差す。亜実は不思議そうにしながら言われるがままボウルを置いた。
「亜実にとってそれはお守りかもしれない。けど、今日からこっち。俺はそんな甲斐性なしじゃねぇぞ?」
亜実と暮らす新居が決まった日、その足でジュエリーショップに向かった。シンプルで控えめだけど、一粒大のダイヤがのった指輪だ。
亜実の左手の薬指からお守りを外す。そしてポケットに忍ばせた新しいお守りを同じ所に嵌めた。
「……うん。よく似合う」
亜実は驚きながらも、その目は次第に潤んでいく。目尻を拭いながら自分の目線までそれを掲げると嬉しそうにはにかんだ。
「亜実、愛してるよ。この気持ちはこの先一生変わらない」
「まだ同棲して一週間だよ?」
「この十年ですでに実証済みだけど?」
亜実は泣き笑いのような顔で俺を見上げた。その口は「何その自信」と言いたげだ。
だけど分かってるんだ。それがただの照れ隠しだってことを。その証拠に頬がほんのりと桃色に色づいた。
そんな彼女の顔を見られた俺は満足げに頷いて背中に腕を回してくる彼女を静かに、だけどしっかりと抱きしめた。
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