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愛の行方
十年前よりも彼女はとても綺麗になっていた。
ショートカットだった髪は、鎖骨を隠すほど長くなり、ゆるく巻かれている。
どこに行くにもデニムだったのに
今夜はとても可愛らしい、ーーーーあの時はきっと見向きもしなかっただろう、ワンピースを着用していた。
彼女の姿を見るのは別れてから初めてだった。
だからそう。十年ぶりだ。
こんなにも時間は流れたのに
笑い方や表情は変わらない。
ーーーーそう、大切だった
あの頃のまま。
そんな彼女を目の端で捉えていると後ろから肩をたたかれた。
「おう!守山、久々だな!元気だったか?」
八月の盆休みに行われた高校の同窓会。
俺たちの学年は三百人ほどいてそのうちの七割ほど、つまり二百人近くが今夜参加していた。
見知った顔もいれば、全然分からない奴もいる。名前と顔が一致せず、ごまかしながら会話をする。
転職した
昇進した
結婚した
こどもが生まれた
二十八にもなればそんな話題があって当たり前。当時の話に花を咲かせながらも互いの近況を報告しあった。
立食式のおかげかみんな気兼ねなく話しをして立ち去ることができる。
「あぁ。幹事おつかれ。ありがとな」
肩を叩いた犯人は、この会の幹事、渡辺だった。
挨拶代わりに彼の手に持つビールグラスに自分のグラスをぶつける。
手元へ向かう視線が一瞬、渡辺の向こうにいる彼女を探した。コンマ数秒だけど、彼女が瞬きをする瞬間ぐらい見れただろう。
「いいーって。まあ、ただ俺がやりたかっただけだし」
ーーーーあ、
はは、と笑う渡辺の向こう側にいる彼女と一瞬目が合った、気がした。
それに気をとられて続く言葉にうまく相槌をうてない。
「……そう。昔から好きだったもんな。こういうの」
当たり障りのないことを返す。渡辺を見ているつもり…だが、俺の目は確かに彼女の背中を捉えていた。
振り向け
振り向いてくれ、と祈る。
その祈りが通じたのか、
渡辺が立ち去ったあとしっかりと目があった。
彼女をずっと目で追いかけていたのに視線がぶつかると恥ずかしい。
それと同時に当時の甘くて切ない想いと、未だそれに囚われている情けない気持ちがせり上がり、何とも言えない気持ちに覆われてしまった。
目が合ったあと、彼女は一瞬目を丸くしたもののいつもの柔らかい笑みを浮かべて友人との会話に戻ってしまったのだった。
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