彼女は今日

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 今日も彼女は私を見ていた。  いや、私が彼女を見ていた、と言った方が正しいのだろう。  家の前の通りをまっすぐに歩いて、十字路を右に曲がる。そこから三つ目の電柱を今度は左に曲がると大通りから少し離れた狭い路地に入る。クリーニング店の前を通過して左手に見えるその場所に彼女はいる。  「こんにちは」  そう話しかけたのは私の方からだった。彼女はどこかぼんやりした目をきょろきょろと動かしながら小さく会釈をした。  「君はここの家の子?」  慎ましく並んだ民家の間にある駄菓子屋の色褪せた看板を指差しながら、私は彼女にそう聞いた。窓越しの彼女はなんだか恥ずかしそうに、それでも何か言いたげに小さく口をぱくぱくさせていた。  「いきなり話しかけてびっくりさせてしまったかな。なに、私は怪しいものじゃないよ。この近くに住んでるんだ。ヨネさんとも顔なじみだよ」  ヨネさんとはこの駄菓子屋の店主だ。若い頃に夫に先立たれ、女手一つで三人の子供を育て上げた。「子供も独り立ちして孫の顔も見られて、あとはもう死ぬだけだね。駄菓子屋なんかほとんど趣味みたいなもんだよ」と、曲がった腰をさすりながら快活に笑うそんな女性だ。  見たところ彼女は十代のようなので、大方ヨネさんの孫といったところだろうか。一度も日に焼けたことのないような白い肌を見るに、きっとこの町の子ではないのだろう。  「君の名前はなんていうの?」  普段は積極的に人と話す方ではない私が自ら声をかけることができたのは、彼女がさみしそうに見えたから、と言ったら傲慢だろうか。  彼女はもじもじとしながら小さく口を開いて、蘭子です、と、そう言った。        
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