0人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女は近所の子供たちの人気者でもあった。おーい、だの、おはよう、だのと子供たちは口々に彼女に声をかけていた。そんな時彼女はいつもひらひらと手を振りながら微笑んでいた。その様子を遠目に見ることが私は好きだった。
ふと、私に気付いた彼女がこちらに顔を向けた。
「こんにちは」
彼女に声をかけられた私は咄嗟に、軽く右手を上げた。まるでたった今彼女の存在に気付いたかのように。
「や、やあ」
「私のこと見ていたでしょう」
口の端に笑みを浮かべながら彼女は言った。
「そんなことはないさ。丁度今通りがかった」
「嘘ばっかり」
そんなに私の挙動がおかしかったのだろうか、彼女はそう言ってけらけらと笑った。なんだか私はきまりが悪くて、上げた右手を下せずにそのまま自分の頭を掻いた。
「そんなこと言って、君の方こそ私のことを見ていたんじゃないのか?」
「どうして?」
「どうしてって、そりゃあ……」
離れた場所から君のことを見ていたっていつもすぐに目が合うじゃないか、そんな言葉を飲み込み、私はむにゃむにゃとわけのわからぬ言葉を発した。私が彼女のことを見つめているから目が合うのであって、彼女が私のことを見つめているわけではない。そんなことは百も承知だ。それでも、と、どこかで期待してしまう自分が愚かしい。
「そうだとしたら?」
「えっ?」
「もし、そうだとしたらあなたはどう……」
伏し目がちにそう言った彼女の頬がいつもよりも赤らんで見えたのは私の気のせいだろうか。
「それってどういう……」
私がそう言いかけた時、黄色い帽子をかぶった男の子が私たちのそばに歩み寄ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!