0人が本棚に入れています
本棚に追加
「お兄さんはよくこの子とお話するの?」
男の子は彼女と私の顔を順に見比べてからそう言った。私は屈んで男の子の目線まで高さを合わせる。
「そうだねぇ」
「お兄さんはこの子のことが好きなの?」
男の子は不思議そうな顔をしながら、いかにも子供らしいあどけなさで私に向かってそう言うのだった。
「……そうだねぇ。お兄さんと彼女はお友達だからねぇ」
「ふーん」
好きだのなんだのって、子供ってやつは素直すぎて嫌になる。私は水面下で思考を巡らせながら、あくまでも自然を装いつつその問いに答えた。
「君も一緒にお話するかい?」
私がそう言い終わるや否や、大通りの方から女性の声がした。
「ほらっ!なおくんもう帰るわよ!」
それは右手に買い物袋をぶら下げた女性が男の子を呼ぶ声だった。あれはきっと男の子の母親で、振り向いたこの子がなおくんなのだろう。母親の声はどこか棘があって、一刻も早く男の子をこの場から引き離したいように感じられた。私はというと、部屋着なのか寝間着なのかわからないようなよれよれの服に引っ掛けただけのサンダル、髭は剃っていないし、そもそも鏡を見ていないから頭の後ろに寝癖がついている可能性だってある。平日の昼間っからこんな格好でうろうろしていたものだから、まあ子供を近づけたくないと思われても仕方がないだろう。
「なおくん、お母さんが呼んでいるよ」
私がそう言うと、男の子はちらと彼女を一瞥して、じゃあね、と言って母親の方へ駆けて行った。私は立ち上がり手を振りながら二人の姿が通りの向こう側へ消えていくのを見送った。彼女も四角越しにひらひらと手を振っていた。
最初のコメントを投稿しよう!