彼女は今日

8/8
前へ
/8ページ
次へ
 古びた駄菓子屋の軒下に私は一人立っていた。シャッターに貼られた張り紙は雨風にさらされて元の色を失っている。私の目の前にある水槽の水は濁り苔むしていて、随分長いこと誰も掃除していないように見えた。そして、その中にはもう魚はいなかった。  激しく雨が跳ねる私の足元に小さな魚が一匹横たわっていた。綺麗な尾ひれがついた白い金魚だった。  「君は幸せになれたのかい」  そう呟いた私の言葉は雨の音に掻き消されていった。  ざあざあと雨の音だけがいつまでも耳に残っていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加