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昴√
「・・・・・・なぁ、美結悕」
「はい、どうしました?昴」
「・・・・・・」
目を瞬かせる昴さん。視線は当然美結悕さんです。
当の美結悕さんは、生徒会長室の壁に備え付けられた大型の本棚から本を取り出していたところのようです。そこで声をかけられ、そのまま振り返ったみたいですね。
────この書類の処理はどうすればいいと思う?君の所感を聞かせてくれ。
「・・・・・・可愛い」
「・・・・・・昴、脈絡って言葉、知ってますか?」
「知ってるが?」
「口説く前に話の筋道を立ててください。さっぱり意味がわかりませんよ?」
「・・・・・・?」
「唐突に口説かれても困ります」
「口説いた覚えはないぞ」
流石は昴さんです。自分の発言が、本音と建前が逆になってるって気付いてません。コテン、と小首を傾げてしまっています。漫画なら頭上にハテナマークでも浮かんでいそうな勢いです。
頭がいいのにこういうことには滅法疎いのです。彼に限った話ではありませんが。
「・・・・・・拉致があきません。もう一度用件をおっしゃってください」
「・・・・・・?この書類の処理をどうすればいいか迷っているから、君の所感を聞かせて欲しいと言ったんだ」
「そんな言葉、一言も出ていませんでしたよ?」
「言ったはずだが・・・・・・」
「脳内と耳と目のフィルター、一度外して洗ってはいかがですか?」
「じゃあ、それも含めて君に任せようか」
「・・・・・・っ」
凄いです、昴さん。
机に肘をついて、人差し指の背で頬杖をついているだけなのに、溢れ出る色気が常人のそれじゃないです。
美結悕さんも、さっきまで優位に立っていたにもかかわらず、思いっきり赤面しちゃってます。というか仕草もいちいち可愛らしいですね。真っ赤な顔の鼻から下を手に持っていた本で隠すとか、美人にしか許されない行動です。
「・・・・・・す、少しはご自分でなさってはいかがですか?」
「それもそう、なんだがな」
美結悕さん、視線を逸らしてなんとか返答したみたいですが、それにも昴さんは気付いちゃってます。掌の上で転がされてますよ、美結悕さん!
「・・・・・・美結悕」
「・・・・・・はい」
「おいで」
眩しそうに目を細めて、昴さんが美結悕さんに向けて左手を差し出します。ちなみに右手は未だに頬杖をついたままです。
なんでしょう、天気を操る神様が気を使ったんでしょうか?急に日が差してきました。もはや後光状態です。強いですね、昴さん。神様まで操って天気を変えちゃってます。祈ってないんですよ、この人。
「・・・・・・っ」
美結悕さんが躊躇いがちに生徒会長席の机に本を置きます。そのまま、ゆっくりと右手を昴さんの左手に重ねました。
おお!いいですね!
そのままいい感じにイチャついて・・・・・・っぁ!
茜が思いっきり珂月の後頭部を殴り、両サイドにゲンコツを置く。そして──
いいいいいいいい痛い!
「なにするんですか!」
「珂月、あんたこそなにしてんのよ」
「昴様と美結悕様の観察ですよ〜今いいところなんで──「どうでもいいわ。駆が呼んでるのよ、行くわよ」──そんな⁉︎今いいところなのに!」
ちょ、頭鷲掴みにしないでください!痛い痛い痛い!お嬢さん!そんな小柄で腕も細いのに、何処にそんな力があるんですか!
あああああああ!ちょ、力強くしないでぇ!死んじゃう!死んじゃうからぁっ!
珂月は涙目の視界でパソコンの画面を見る。
そこには──
座席側に回り込んだ美結悕の腰を、柔らかく抱き寄せる昴の姿があった。
美結悕はそのまま昴の左肩に手を掛け、右膝を座面に乗せる。
スルッと。
撫でるように昴の右手が美結悕の頬を滑って、首筋を柔らかく押さえ、ゆっくりと引き寄せる。
ああああぁぁぁぁああああぁ!!!
ちょっと待って!何アレ!
めっちゃ美味しい展開が!
「お嬢さん!ちょ、ちょっとタイム!」
「えぇ、時間ないから早く行くわよ」
「そっちのタイムじゃねぇよ小娘がぁ!」
「はいはい行きますよー」
今度は首根っこを思いっきり掴まれ、ズルズルと引き摺られる。
「・・・・・・⁉︎」
最後の最後の抵抗で見た画面。
ちょっと待って!やった!ねぇほら!あの御二方キスしてますよ絶対!ねぇ!見たいんですけど!ねぇ!
確かに画面には、口付けているように見える二人の姿がある。が、珂月の位置からでは画面が光で見えづらい。
だがしかし、キスしているのは確かな訳で。
あああああぁぁぁぁぁaaaaa!!!!!
珂月(いろんな意味で)再起不能。
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