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「ええと、その人に告白は?」
「…まだ」
「頑張れよ。世界を救った勇者に結婚を申し込まれて、断る奴はいないよ」
「本当に?」
「ああ」
にこ、と微笑みかけるとホッと安堵したような表情になった。そして、何故かもう一度抱きしめられる。
「これから先も、ずっとそばにいてほしい」
「何だよ、もう俺が恋しくなったのか。仕方ない奴だな」
よしよし、と背を撫でてやる。
親離れできないヒナのようだ。まだまだこいつには俺が必要なのかもしれない。
「一緒にいてくれるか?」
「はは、仕方ないからそばにいてやるよ」
「本当か!よし、国に帰ったら盛大な式を挙げよう」
「ん?気が早いだろ。返事もらってから準備しろよ」
「一緒にいてくれるって、そういう意味だろう?」
「……ん?」
その言葉に違和感があった。
こいつとは今、何の話をしているんだっけ。
「ああ、もしかして結婚を反対されるかと心配しているのか?大丈夫。そんな声、お前の耳に届かないようにさせるから」
「ちょ、ちょっと待っ」
「あらゆる手段を使って、お前のことを守るから。そのために何を犠牲にしようとも構わない。お前が望むのならば、どんなものも手に入れてみせるし、世界中を焼きつくしてもいい」
「こっ、怖いこと言うなよ!」
冗談に聞こえない声のトーンで言われても困る。実際、それができる力がこいつにはあるんだから。
「だから、これから先も一緒にいよう?」
俺の頭は真っ白で、この勘違いに対して、何も打開策が浮かばなかった。
だからまさか…俺が断ったことで、"勇者"が"魔王"と称されることになるなんて、思わなかったんだ。
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