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それでも、さすがキタコー。
しぶとくついてくる。
わざと障害物が多い道を使っているのに、モタモタしてるのにあまり距離を稼げない。テリトリーなだけある。普段どれだけ鬼ごっこやってんだよ、っていう話だが。
番長に続きながら、そういえばジンジャー置いてきちゃったと思い出したのがいけなかったのか、それとも距離感を確認するためにジャンプしている最中よそ見したのがいけなかったのか。
「ほぎゃっ!?」
「ッ、バカ!」
盛大にこけた。
路地裏を抜けて少し開けた場所。換気扇を避けてジャンプしたのだけれど、ちょろっと出ていたケーブルに足が引っかかった。
結局そんなに距離も離せていなかったから、その間に追いつかれる。番長が助け起こしてくれたけど、胸からいったせいで呼吸がちょっと止まった。ケホケホと咳をする俺の背中を叩いてくれている番長。優しい。
「わざわざ、喧嘩しやすいとこに、誘導してくたのか?優しいなァ?」
そう言いながらも、息たえだえな美作くん。
もうこけた時点で逃げられないと悟った俺と番長は、とっくに足を止めていたし、呼吸も少し整っていた。
「久しぶりに捕まっちゃったね、ばんちょー」
「アホ、2週間くらい前もお前こけてこうなっただろ。デジャブだわ」
…そうだっけ?
確かに番長と一緒に喧嘩すんの久々じゃない気がする。呆れた視線に耐えかね、へらりと誤魔化すように笑っといた。
「まぁ、見つかんなきゃいいだけだしな」
「おっ、いいこと言うねー!ばんちょー」
ため息混じりにいいことを言われ、賛同とばかりにファインティングポーズで待ち構える。そんな俺の姿を見て、番長は「やっぱ喧嘩好きなんじゃねぇの…?」と疑心の目を向けてきた。
勝てる試合は楽しいとは思うよ。勝てない試合は嫌いだけど。
番長が背中にいるなら俺は無敵だし、てかこの為に俺は鍛えたんだからたまにの喧嘩は別に嫌いじゃない。
「たったふたりで勝てると思ってんのか?」
「ばんちょーひとりに負けた人らがよく言うよ」
「煽るなサキ」
「ッ、あの頃とはちげぇっ!!お前ら、こいつらゼッテェ潰すぞ!!!」
そんな声は30分後には掠れ、弱々しく、負け惜しみのセリフを呟きながら、俺たちふたりの背中を睨んでいた。
*****
「擦りむいた…」
「舐めとけ」
「絶対ここ青タンなる…」
「湿布でも買っとけ」
無事、キタコー群勢から抜け出し、番長に痛い痛いアピールをする。ガチな怪我したときは即病院に担ぎ込まれる勢いで心配してくれるが、このくらいではこのとおり冷たくあしらわれる。
いやでも、やっぱ番長カッコよかった。
この喧嘩している時にしか見られない闘争心ギラギラの肉食獣みたいな目。
アレを見るために、俺は鍛えて鍛えて強くなったんだから見なきゃ損である。そしてそんな番長に見とれていたら、お腹にいいのもらっちゃった。
「そのよそ見する癖マジで治せ」
心配していないわけではない。慌てるほどではないだけ。
そしてこういう軽いケガの時は怒られてしまう。
「ばんちょーがカッコイイのがいけないと思うな」
「…ッチ、くそが…。もう今日は解散!」
えぇー、もう?
そんな俺の言葉は受け入れられず、駄々をこねる俺は無視されて駅前でわかれた。
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