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学校への帰り道を、後方についてくる4人の気配を感じながら番長と肩を並べて歩く。 いつの間にやら日も暮れてしまい、辛うじてオレンジ色の薄明かりが河川敷の向こうから光さしていた。 結構動いたし、ヘトヘトなので帰りたいのも山々だがみんなして荷物は学校に置きっぱなし。 教科書とかならいいが、いかんせん財布などなどもすべてだ。 『紫』 『んー?』 『…お前すげぇな』 『へぇ』 なにが? 突然褒められても、よく分からん。褒めるなら具体的に褒めて。 『最初の時もだけど、お前全然恐がんねぇよな』 『…ばんちょーを?』 そう見えました? 普通に恐かったですけど。 なんて、そう言っても良かったけれど。 『ばんちょー大好きだからね、俺』 『……』 『怒ったばんちょーも好きなんだよ、きっと』 そう言うってことは、番長はあの状態の番長を恐がって欲しくないのかな、と思ったり。 無理言う。 普通に恐いよ。 『趣味悪いな』 それでも。 『…そう?』 恐がっていないというだけで、番長がそんなに嬉しそうに笑うなら、そういうことにしましょう。 いつだって、番長を恐がらない、鈍感な俺でいましょう。 そう思った。 たぶん、その時初めて見た顔だったかもしれない。泣き笑い、みたいな。泣いちゃいなかったけれど。 番長は恐いながらも、恐がられるのは恐かったのかもしれないと。 『俺、ばんちょーの全部好きなんだよ』 『嘘くせぇな』 『えー、ほんとだよー?』 それから俺は、番長の怒る顔も本当に好きになった。そういう風にしていれば、いずれ感情も追いつくだろうと、番長が言った通りだった。 番長の全部が好きになるようにしていたら、本当に好きになった。 今では怒った顔さえもかっこいいし、素敵に見える。 番長あんま滅多に怒らないしね。 『かっこいいな、お前』 そんなこと、そんな素敵な笑顔で言われたら、好きにならざるおえなかった。 ****** 「あれからでしたっけ?チカイさんがサキって呼ぶようになったの」 そう高槻に言われて思い出した。 「そうだねー。急にあだ名変えたねぇ」 誘拐事件が終わって、ミツが番長に懐いて学年違うのに休み時間毎に遊びに来るようになってからだった。 『ムラサキって書いてユカリ…なら、サキって呼ぶわ、これから』 『異色すぎて反応できる気がしなーい』 『慣れろ』 相棒なら、自分だけが呼ぶ名前が欲しいと言われてそう呼ばれるようになった。 最初こそ戸惑ったけれど、本当にその日からずっとサキって呼ぶから、普通に慣れたし反応できるようになった。 『サキ』 今では、そう呼ばれる度に、特別だと言われている気がして嬉しい。 誰も呼ばない、番長だけのその新しい呼び名がとても嬉しかった。
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