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「ばんちょーのバカァァァァァッ!!!!」
そんな雄叫びと涙目で始まった12月。
さっそく不穏な空気です。
******
【誓side】
涙目のまま教室を飛び出していったサキを呆然と見送りながら、クラス中の視線を浴びた。
伸ばしかけた手は中途半端な位置で止まり、追いかけようとしていた足は椅子に座ったまま地に付いている。はぁ、とついたため息は数秒前まで喧騒に包まれていたはずの静寂な教室に大袈裟に響いた。
「見てんなよ…」
独り言のように、それでも周りに伝わるように呟けば向けられていた視線は一気に拡散する。額に手を当て項垂れていても仕方がない。
サキが、不満を抱えているのは知っていた。
それは夏休みが終わる前から、結構長い間。
せめてひとつの不満をなくしてしまおうと、慕って遊びに来ていた後輩はそれとなく遠ざけ、サキとの時間を優先していたのにも拘わらず、本日不満爆発。
それは教室を拠点に、クラス中に被弾させた。
「めっずらしー。喧嘩?」
「…ノボル」
ポケットに手を突っ込んだまま、教室に入ってくるノボル。
タイミングが悪く、旧友に見られていた事実にさらに凹む。相も変わらず項垂れたままの俺に、ノボルはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「チカ大好きなユカリがあんなに怒るのも珍しい。何言ったん?」
「……」
面白がってんじゃねぇとそんな意を込めて睨んでも効かず、笑みは崩れなかった。
「バイトだよ」
「あー……、まだ続けてたんだ?」
「…はぁ」
人生初のバイト。
それは、思った以上に金が貯まらず詰め込みすぎたのは自覚している。それを、サキが面白く思っていないことも知っている。
それでも、そのサキの面白くなさそうな顔は盆明け同様、なんとなく嬉しく思ってしまうのも事実で、なかなか辞められなかった。もちろん第一は給料が原因だが。
「逆によくあんなユカリ放っておいてバイトできたな」
「…うるせぇ」
「目標額いったんだろ?なんでまだ続けてんだよ」
もう1段階上行けると思ったんだよ、うるせぇな。
浅はかな自分の考えに、呆れてしまう。早々に見切りをつけて辞めてしまうべきだった。シフト入れすぎて店長は俺に頼りきっていた。
気がつけば、俺が抜けると営業が回らないという事態に陥っている。
「…ノボル」
「あん?」
「なんか用か?」
「……別に?」
追いかけたければ、さっさ追いかけてこれば?と言われて、ようやく重い腰を浮かせた。
昼休みにわざわざ、他クラスまで来るのだから何かしら用事があるかと思えばそうではないらしい。別にノボルがうちのクラスにくるのは珍しくない。
それでもそう尋ねたのは、サキをなんと説得すればいいか分からなかったからだ。
「成績にこだわる癖に、サボりは許容すんのね」
「サキとクラス離れなきゃ成績なんてどーでもいい」
一緒にサボれば、クラス落ちする時も一緒だろと返せばなんとも言えない表情で手を振られた。
「ごちそーさま。いってらっしゃーい」
昼休みが終わる5分前。
ノボルに見送られながら、教室をあとにした。
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