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【紫side】
フツフツと、知らぬ間にフラストレーションは溜まっていっていた。自覚したのは、本日の昼休み。
なう。
「………」
馬鹿って言っちゃった…。
今更、勢いづいて出た言葉に青ざめる。三角座りで俯きながら、屋上の隅でアスファルトと睨めっこしていた。
以前鍵を盗んで入ってから、窓の鍵に細工して、鍵なしでも窓から出れるようになった屋上は今じゃ絶好のサボり場所である。番長とクラス離れたくないし、そう滅多にサボれないけど俺はここを気に入っていた。
だからなのか、怒って、叫んで、感情爆発した俺は無意識にここへ来ていた。
「……バカは俺だ」
番長が馬鹿なら俺はなんだ。大馬鹿者か。
番長の家が母子家庭なのも知ってる。
番長が無駄遣いしないように番長ママに気をつかってるのも知ってる。
番長ママが頑張って朝も夜も働いているのも知ってる。
元々、高校入ったらバイトすると言っていたのだ番長は。
そうだというのに、俺ってやつは…。
『ばんちょー、クリスマスさぁ皆でどこ行く?』
『……わりぃ、バイト入った』
『………』
頭が真っ白になって、次いで出たのがあのセリフだった。そんときは自分のことしか考えてなかったし、瞬間的に怒りが爆発してしまった。
自己嫌悪の真っ最中。
誰も悪かない、ただ俺だけが悪い。
そうだというのに、優しく心広い番長はカラカラと屋上の窓を開けて、また一緒にサボる気なのだ。
「……」
「…なんだその目」
どんな目をしているというのだ。
顔だけ振り返り、背中を向けたままじっと番長が窓をまたぐ様子を見ていた。上げられた視線とかち合えば、またこの人は穏やかに笑うのだ。
「バカ、風邪ひくぞ」
しかも俺の上着まで持参して。
聖母かな?
かっこいくて可愛くて優しくて心も広くて喧嘩も強くて頼りがいのあるナイスガイ。本当に人間か?
俺に近寄り、頭に上着を落とされる。三角座りの俺は見事に埋まった。
12月ともなれば屋上はさすがに寒かった。そんなの知ってる。知ってるけど、咄嗟に飛び出したし、授業も始まってるだろうからノコノコ教室に取りに帰るのも嫌だったし…。
「ありがと…」
「おう」
とどのつまり、大助かりなわけで。
モソモソと自分の上着に手を通し、再び三角座り。こんな優しさに当てられ、ますます自己嫌悪ですよ。
ごめんね、が言えない。
だって俺は、クリスマス番長と遊びたい。
「…ばんちょー」
「なに」
「本当に人間?」
「……まて。意図が分からん」
眉根を寄せて、言葉の真意を汲み取ろうと考え込む番長。神様なの?と言った方が分かりやすかっただろうか。
「ばんちょーは、怒らないよね」
「そうかぁ?」
「ごめん、そんなことなかった」
怒るわ。
怒ってる番長よく見るわ。ノボルはまじで人の地雷踏むの上手。
「俺に、怒ることがないよね」
「…それはあれか。怒られてる自覚がねぇのか」
「ううん、今のも違った。ごめん」
いやぁ、俺も怒られるわ、よく。ノボルのこと言えないな。
んー、なんと言えばいいのか。
くだらないことで怒られることはあるけど、喧嘩をしたことないな、そういえば。
「別にさっきのは、怒ってねぇよ」
「怒っていいと思うよ…」
「つかお前が怒ってたんだろ」
確かにそうだ。
俺が勝手にキレ散らかしただけだ。
番長は、怒ってなかった。
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